名古屋発2500km

Macau

 飛行機で一番嫌なのは離着陸の時だ。10年余り前に、今は前線を退いた名古屋空港で発生した大惨事・中華航空機事故は着陸失敗の結果発生したものだったと記憶している。あるいは離陸失敗だったかもしれない。何であれ離着陸時こそ事故の発生率がもっとも高くなる魔の時である事は間違いないはずだ。しょっぱなから油断はできない。機内放送に従い用心深くシートベルトを締めるが、乗客の安全を守るはずのこのベルトも、いざ絶望的な墜落事故となれば私の胴体をちょん切るための刃物と化す事を思い出し、何とも言えず嫌な気分になる。

 私が搭乗したJAL機はそんな私の不安を知ってか知らずか、不気味な轟音を発して細かく振動しつつ暗い滑走路を走り始めた。轟音の正体は、言って見ればエンジン音とロードノイズだ。しかし数百人の乗客を乗せられる巨大な物体が、高速道路を走る自動車以上のスピードで滑走路を行くのだ。不気味な鳴動はいよいよその激しさを増し、機全体が地獄の入り口へ真っ逆さまに転がり落ちていくのではないかとさえ思えてくる。不意に、機首方向が持ち上がり、私の体は重力にひかれてシートに押し付けられた。空へ向けて飛び立つ以上はそういう現象が発生するのも必然なのだけれど、この時に味わう浮揚感はやはり気色の良いものではない。ともあれ不気味な振動から解放された飛行機は、ぐんぐんと高度を上げていく。時々、機体ががたがたと揺れる。路面の凹凸に乗り上げて振動しているのとはわけが違う。この振動が何かの拍子に一定限度以上に達したら、そのままジ・エンドだ。私は体を硬直させながらシートにしがみついた。急激な気圧の変化で、耳の奥に不快な圧力を感じる。

 飛行機はやがて水平飛行に入り、機体の振動もどうにか安定した。もっとも、座席がエンジンの真上辺りにあるのか、音はかなりうるさい。それでも時々機体が揺れるのは、飛行機初心者にとっては非常に心もとない。

 1時間ほども飛んだ頃だろうか。機長挨拶の放送が流れる。現在飛行機は宮崎県沖の日向灘を飛んでいて、フライトにはまったく問題がないのだそうだ。こういう場合、機長が現実に発生している全ての問題を乗客に対してアナウンスしてくれるものなのかどうかは定かではないが、それでも「問題なし」の言葉は心強い。それにしても以前に18きっぷで鹿児島まで旅した時などは正味20時間ほどかけて鹿児島県は開聞岳まで移動したものだったのに、この飛行機は1時間あまりで名古屋から開聞岳の沖合いまで移動してしまった。その事実に愕然とさせられる。

 不覚にも名古屋からマカオへの距離は正確に把握していないのだけれど、およそ2500km程なのではないかと思われる。JAL機の座席シートに設えられた個人テレビには地図上での自機位置、現在の飛行速度、目的地まで距離・所要時間等を表示するチャンネルがあるのだが、これを見たところでは、名古屋→マカオの時の飛行速度はおよそ600km/h、帰りのマカオ→名古屋は900km/hほどで、所要時間がそれぞれ4時間弱、3時間弱だったから出てきた約2500という数字だ。それにしてもJAL機の個人テレビは機体前方カメラの様子を映し出す事もできたりして、結構マニアックで良い。もっとも、夜間飛行の場合の前方カメラチャンネルはひたすら真っ暗闇が表示されるだけなのだけれど。もちろん映画を見たりする事もできるし、ちょっとしたゲームもプレイ可能だ。私はひとしきりテトリスで時間をつぶしていたのだが、時間が時間なのでそのうちに眠りに落ちていった。

 マカオには午前2時前に着いた。マカオと日本とでは1時間の時差があり、マカオの午前2時は日本の午前3時である。さすがに空港には人影もまばらで、というより同じツアーの面々以外にほとんど人がいないような状態だったのだけれど、それでもイミグレーションは混雑し、やきもきさせられる。実を言うとセントレアでの出国手続きの時にはベルトのバックルが金属探知機に反応するというアクシデントに見舞われて肝を冷やしている。またぞろ同じようなトラブルが発生するのではないか。待っている間も気が気ではない。何故私は必要もないのに懐中電灯など持ってきてしまったのだろうか。電灯はともかく乾電池などは実は持ち込み禁止品で、話がこじれた流れでその事を追求されたりはしないだろうか。様々な疑念が脳裏をよぎる。結果的には入国審査もつつがなく済んだのだけれど、経験がない人間には非常に敷居の高い儀式である。

 夜のもっとも深い時間、マカオの街はひっそりと静まり返っていた。カジノ周辺を除いて。マカオのカジノはホテルに隣接する形で建っている事が多い。マカオでもっとも有名なカジノとされるリスボアもホテル併設のカジノで、リスボア周辺には大小様々のカジノが立ち並び、それぞれが満艦飾に飾り立てているからさながら不夜城の趣だ。聞くところによるとカジノからマカオ政府に上がる収入は3000億円ほどだという事だ。それだけたくさんの人がカジノで負けているという事だが、今宵も人びとは一攫千金を夢見てギャンブルに打ち興じているわけである。




空飛ぶ鉄塊 名古屋発2500km
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