都市伝説・抗うか、便乗するか

 都市伝説やうわさといったものは案外簡単に商売に取り込まれてしまうようで、これまでに「フィクションのはずのホラー映画に本物が!」というよく聞く噂を使ったあざといプロモーションの事を独立項として取り上げたことがある。これは似たようなものが鶴屋南北「東海道四谷怪談」の頃には使われていた由緒正しくも古典的な手法だったので、今回はもっといろんな形の都市伝説商売の話をしてみる。基本的には噂の話なのだけれど、影の主役はひょっとすると、何とかして都市伝説を飯の種にしようという商魂逞しい商売人なのかもしれない。

■都市伝説商売1 「口コミ」を売りにした温泉
 山梨県にあるその名も「ほったらかし温泉」は、口コミで評判が広まった温泉として、一時期マスコミで喧伝されていた。温泉がわいたので湯ぶねを置いて、特に宣伝もしないままほったらかしておいたら、口コミで評判になり、口コミを武器にマスメディアで名を売った変り種の温泉だ。今では隠し湯の雰囲気ではなくなってしまっただろうが、商売としては大成功といって良いだろう。

 この温泉はもともと評判になるだけあって、強力な売りがあった。湯船から望む富士山や夜景が美しいらしい。温泉に「ほったらかし」と名づけたオーナーのネーミングセンスもなかなか素敵だが、大成したのはアイデアマンのオーナあっての事だったのかも知れない。

■都市伝説商売2 嘘か真か横浜三塔物語
 「横浜三塔」とは、神奈川県庁(通称「キング」)、横浜税関(通称「クイーン」)横浜市開港記念会館(通称「ジャック」)の三つの建物のこと。これらの建物に関して、「外国の船乗りが、横浜三塔に航海の安全を願掛けした」というような言い伝えはあったらしい。それに便乗した横浜の観光業界が、三都物語に引っ掛けたものか、「『横浜三塔』を地上から同時に見える場所全てを巡り三塔を眺めると願いが叶う」という話を「横浜三塔物語」と銘打ってキャンペーンを展開しているらしい。関係当局がそうアナウンスしているものか、過去に何度か提灯持ちの記事を書いているヨコハマ経済新聞の造語なのかは知らないが、「横浜三塔物語」は」「新都市伝説」という聞きなれないジャンルに分類されるようである。

 ヨコハマ経済新聞は、私が確認している範囲で2回、2006年11月2日と2007年2月19日に「三塔物語」を記事にしているが、その2回ともでこの「新都市伝説」という表現を用いており、単なる言葉のあやで出てきたものでもなさそうだ。「新都市伝説」だから都市伝説テイストを取り入れつつ新たに創設されたという事なのだろうか。2006年の記事では船乗りの言い伝えや巷の噂に由来するものというような微妙な書き方をしているから、完全なる「野生」の話ではないのかもしれない。

■都市伝説商売3 幸運のジンクスにあやかれ受験商戦
 私の頃にはまだなかったジンクスだと思うが、この何年かのうちに「キットカット」や「コアラのマーチ」が受験生にとって縁起の良いお菓子だと言われるようになった。「きっと勝っと」で受験に勝てるし、コアラは木から「落ちない」からだという。たかだか数百円のお菓子で試験に合格できるならということなのか、受験生の間ではその人気になかなか侮れないものがあるようだが、キットカットの人気に目をつけた食品メーカーが、2006年の受験シーズンごろから似たような験担ぎ商品の開発に乗り出すようになった。2007年に目立ったのは下のようなもの。

「英・数・国(エー・スー・コク)がわかるラーメン」、「うカレ!うどん」、「オー・ザック<受(う)カルビ焼肉>」、「メントス(面接通す)」、「キシリトールガム」(きっちり通る)、「トッポ」(トッポで突破)、「ハイレモン」(入れるモン)、「カール」(受カール)、「ポッキー」、「チキンラーメン」(具に五角ナルト=合格ナルト、チキンカツ=キチンと勝つ)

 駄洒落としては、どれひとつとして及第点を挙げられそうにない。やはり普段から頭を使い、切実感を伴った受験生の間から生まれた「きっと勝っと」は佳作である。

■都市伝説商売4 別れのジンクスと戦う名古屋のボート池

 名古屋の東山動植物園にある上池のボートはカップルで乗るとやがて破局を迎える事になるのだという。よくある話だが、噂を気に病んだ?園は、奇策をもって不吉なジンクスの打破に挑んだ。2艇のボートをピンクに塗装し、白字で「僕たちは別れません」と書き込み、さらにはオールをハート型にして、「伝説の別れボート・チャレンジ号」と名づけた上で、1時間の上限を設けカップルに無料で貸し出すイベントを行ったのである(この企画は2007年2月いっぱいで終了)。今回紹介する中では唯一ネガティブな噂に抗い、それでいて話題づくりには利用しているという強かな商売だ。

 聞けばローカルニュースでも取り上げられたというが、幸か不幸か私はチャレンジ号の勇姿を目撃したわけではない。このボートに挑んだチャレンジャーを待ち受ける結末は、どうなっているのだろうか。恋人たちはとても幸せそうに手をつないで歩いているけど、まるで全てが、そうまるで何もかも全てが上手くいっているかのように見えるけど、真実のところなんて誰にもわからないのである。

 ちなみに東山動植物園の場合、ボートに乗った後植物園に行けばOKという救済措置もささやかれているようだが、これまた真実のところなんて誰にもわからないのである。























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