山陰の夜陰に紛れて

 豊岡での行動時間を確保するため、京都から福知山までは特急を使用したのだが、それでも約8000円の現金以外には、大した戦果の挙げられなかった初日(見方を変えれば8000円の現金収入はそれなりに大きいのかもしれないが)。宿泊地は松江であった。

 島根県松江市。鳥取を一直線に横切っての移動となり、まさに山陰デスティネーションなのだが、「山陰本線」などと、路線名に「本線」が付く基幹路線でありながら、山陰線の乗り継ぎは最悪の部類に属する。そこそこの時間に松江に着こうとしたら節を屈して特急を使わざるを得ない。8000円と相殺するほど高価な特急運賃ではないが、城崎で観光と言うほどでもない町歩きをし、鳥取まで鈍行で進んだ後、特急に乗り換え。さすが特急だけあって対向列車待ちなどはほとんどないのだが、気動車であるのは鈍行と変わらないため、独特の振動と重低音が耳について離れない。

 車中、「国盗り物語」を読了。松江にあるのはくにびき大橋である。この小説の後半は、織田信長編と銘打たれているものの、実質的な主役は明智光秀で、信長は「光秀の目から見た信長」としての描かれることが多い。元よりそりの合わない二人、次第に疑心暗鬼に陥っていった光秀が、ついには信長を弑する描写は、さすが名人芸の域に達している気がする。最初の主題がいつの間にやら雲散霧消するパターンが多い司馬遼太郎の著作の中では、わりと綺麗にまとまった話ではあった。

 もっとも、リアル武将路線の信長編よりは、スーパー武将路線の斉藤道三編の方が、読み物としては面白かった。ともあれ、全編通して京都の描写が多い本作を読んだことが、この旅の終盤に生きてくることになる。いや、考えてみれば序盤の主人公であった斉藤道三こと松浪庄九郎は油屋だったわけだが、今回、現代で言う油屋であるところのガソリンスタンドで用事を一つ片付けられたことが、ある種のシンクロニシティのような気がしないでもない。

 松江に着いたのは19時少し過ぎのことだ。以前、月山富田城や松江城を落とすためにこの町へやってきたときは、駅で出雲そばや宍道湖七珍を食べたので、今回も夕食はその方針で行こうとしたのだが、頼りの店が閉店でもしたのか、それらしい店舗が見つからない。結局、駅から少し離れたところにあるローソンでカップ麺を物色。ついでに、近場の本屋でハーンの「日本の面影」を入手しようとしたが見つからず。まあ、こちらは名古屋に戻ってから丸善辺りで見つければよかろうと思ってホテルへ。

 前回来たときは、山陰の他都市と比べたせいか、それなりに活気があるように感じた松江の街だが、やはり山陰らしく、駅前にも盛り場の風情はない。泊まるホテルは、全く意識していなかったのだが、これまた前回と同じプラザホテル。やはり、安価なのが良かった。






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