呪われた旅路?

 直江津駅で富山行き17:11の電車を待っている間に、雨が降り出していた。田舎駅とは言えさすがに直江津の駅には屋根があったのでさほど気にしてはいなかったのだけれど、走り出した電車の中から見る限りでは、思っていたより雨脚が強いようだった。指折り数えてみると1年と3ヶ月ぶりぐらいになる日本海は、驟雨にけぶっていた。

 ほんの2、3時間前に登った春日山城の本丸から見ると良く分かるのだが、いや、ちょっとした地図で当該部分を見るだけでも十分なのだけれど、新潟と富山の間は海岸線まで山がせり出す形になっていて、半ば遮断されてしまっている。今でこそ北陸線をはじめとして国道や高速道路が通ってはいるものの、ほんの一昔前までは交通の難所だった場所だ。快適なはずの電車内から見ていてもそのことは良く分かる。直江津駅のあった上越市中央部から旧西頚城郡の名立町・能生町域(現在は共に上越市の一部となっているらしい)を走り抜け、ヒスイの産地として知られる糸魚川市に入るまではとにかくトンネルが連続する。しかもその一つ一つがかなり長い。時折トンネルの外に飛び出しても平地らしい平地がほとんどない。途中にあった筒石駅などは、完全なトンネル駅だった。地下鉄でもないのに日の光が当らないところに駅があるとは、思っても見なかった。最初は機械系か何かのトラブルで緊急停止でもしたのかと不安になったほどだ。

 しかし、この予感は妙な形で的中することになってしまった。久しぶりで開放感を味わったような気がする糸魚川の駅を出て、青海、親不知と再び閉塞感の強い駅を抜け、列車が市振駅に入ったところで本当のトラブルが襲ってきた。市振の駅は無人駅か、準無人駅程度の小さな駅なのだけれど、電車はいやに長い時間この駅に停まっている。対向列車の待ち合わせだろうかと怪訝に思っているところへ、車内放送が。どうも、進路上にある信号機が赤のままになっているらしい。こういう場合、「なぜ赤なのか」については列車に同乗している車掌や運転士にも知らされないらしく、アナウンスの車掌の声にも不測の事態に戸惑っているようなニュアンスが感じられた。管制(電車の場合もそう言うのかしらん)に赤信号の理由を問い合わせているらしい。やがて、乗客の間にも微妙な苛立ちのムードが漂い始めた時、再び車内放送があった。なんと、あろう事かこの先の魚津駅付近で車両火災が発生したため、その関係で付近の列車が止まっているというのだ。

 車両火災!未だかつてそういうトラブルで停まった電車に乗り合わせたことなどなかった。それって一歩間違えば大惨事なのではないか。今になってあらためて魚津駅の車両火災について調べてみたところ、あったあった、それらしい報道が。8月7日付の北日本新聞「地域・社会」の記事がそれである。どうやら火災を起こしたのはJRではなく、魚津駅付近を併走する私鉄・富山地方鉄道の車両のようで、原因はどうやら落雷らしい。記事の一部を引用すると
…6日午後4時50分ごろ、魚津市文化町の電鉄魚津駅構内から煙が出ていると119番があった。駅構内に停車していた宇奈月発富山行き普通電車=2両編成、小松悟志運転士(29)=の後部車両下部付近から出火しており、約1時間後に鎮火した。乗客13人がいたが、全員避難し無事だった。出火当時は激しい雷雨だった。

 電車は運転士だけのワンマン車両。電鉄魚津駅は定刻の午後4時41分に発車しようとしたが、停電のため一時待機した。再び発車しようとしたところ、運転席の左外から火花が見えた。

 さらに後部車両外からも火が見えたため、乗客を車外へ降ろそうとしたが、ドアが開かず、先頭車両の運転席横のドアから降車させた。同駅はビル3階に位置しており、運転士は乗客を1階まで誘導した…

などとかなり大変なことになっていたようだ。さらに、「火花、悲鳴、恐怖の乗客 電車に落雷 」と題された別の記事では、「真っ黒にすすけた車体が、落雷の威力を物語る」などという一文が見られるのだから恐ろしい。私が実際に魚津駅を通り過ぎたのがすでに日も暮れかかった雨の夕方だった事もあって、それほどの大騒ぎになっていることとは夢にも思わなかった。むしろ、このトラブルによって発生した列車の遅れによって、富山から金沢へと向かうための乗り継ぎに支障が出るのではないかと、そのことばかりを心配していた。本来のプランで行けば乗り継ぎのための待ち時間は20分ほども発生するはずで、十分に余裕を見た計画だったはずなのだが、火災トラブルによるタイムロスでその20分の余裕をほぼ使い果たしていた。まあ、それでもどうにかタイムリミット内に富山駅にはたどり着けそうだった。ところが…。

 富山駅まではまさに目と鼻の先、おそらくは500mと離れていないであろう地点で突然電車が減速、ついには完全に停止してしまった。「これは一体どうしたことか?」と必死で事態を把握しようとしているところへ、再びの車内放送。どうやら前方にある踏み切りで非常停止ボタンが押されたらしい。なんとハプニング満載な電車旅であることか!!一日のうち同じ列車で二度もトラブルによる足止めを食うことになったのは生まれてはじめての経験である。もうだめだ、19:38の小松行きには間に合わない。金沢入りは22時過ぎのことになるだろうか。絶望的な気分に陥り、非常停止ボタンが押された理由についてはまったく注意が向いていなかった。大方、踏切を行く車の脱輪か何かだったのだろう。

 しかし、「どうせ間にあわねえよ」と捨て鉢な気分で富山駅に入ったとき、私が乗り換える予定だった小松行きの列車はまだ富山駅構内で待っていてくれた。さすがに20分以上余裕があるはずの乗り継ぎをフイにし、乗客に不利益を被らせるのはまずいと判断したJRの計らいだったのだろうか。田舎の電車はこういうところの融通は意外と利くらしい。

 富山から金沢の間では特にトラブルは発生しなかった。時間は確認していなかったが、金沢入りしたのは21時を少し回ったぐらいのタイミングだっただろうか。金沢駅、3年ほど見ぬ間にかなりの「厚化粧」を施して見てくれはかなり立派になったようだ。しかし、宵の口のようなこの時間にして、すでに駅近辺の人影はまばらになりつつある。私がこの街に暮らしていた頃からこんな調子だっただろうか。何だか物寂しい気分になったが、気を取り直して金沢最大にして北陸三県最大の繁華街・片町まで歩き始めた。今宵の宿はこの街の一角にある男のサウナ「オーロラ」である。もちろん以前からその名は知っていたのだけれど、改めて耳にすると「男のサウナ」という響きに胸がすくようではないか。

 かつては駅から片町までは自転車で移動するばかりだったのでなんとなく距離感がつかめなかったのだけれど、歩いてみると30〜40分ほどかかるようだ。多少くたびれ始めたところで片町に隣接する香林坊地区に到着。こちらは金沢の昼の顔なだけに、この時間ではすっかり夜の帳が下りてしまっている。で、片町であるが、表通りを歩いているはずなのに風俗系の店の客引きが鬱陶しいことこの上ない。業種はいわゆるピンサロだろう。ヘルスとかソープではなさそうだ。しかし、彼らが並べ立てる口上は噴飯物もいいところだ。まったく、連中は私を誰だと思っているのか。風俗の都・名古屋から来た王子様ぞ。「名古屋でその値段にその程度のサービスを標榜していたのでは物笑いの種だ」などというようなことを言ってやったらさすがにグーの音も出なくなったらしい。なぜか勝ち誇った気分で餃子の王将に入り、夜も遅い時間なのにかなり重めの「スタミナ定食」を食らい、一人祝杯をあげる。こんな王将は私の在金中にはなかったな。しかし、少し冷静になってみると、性風俗産業が異様に発達してしまっている名古屋の行く末に一抹の不安を感じてしまった。

 オーロラは、王将の向かい側にあった。この種の24時間サウナとしては、まあ中の下から下の上あたりにランクされそうな店だ。健康ランドほど風呂のバリエーションは無く、仮眠室も備えているが、やはり仮眠室は仮眠室だ。今回も耳栓を用意していなかったため、いつぞやのように、夜通し部屋中に横たわるおじさんたちのいびきに悩まされる羽目になった。






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