ナウマンゾウ博物館

 ここまで半日ほど電車に乗り通しだったが、長野から30分ほど列車に揺られ、ようやく今日最初の目的地・黒姫駅に到着。もっとも、実際の立ち寄り先は野尻湖の近くにある野尻湖ナウマンゾウ博物館であって、黒姫高原や小林一茶の史跡ではないので、路線バスに乗って野尻湖を目指す。博物館ホームページの案内によれば、博物館へは野尻湖行きバスの終点辺りまで乗り続けて行けば良いらしい。終点と言われるととんでもなく遠くまで行くことになり、かなり時間を食いそうな懸念が頭をもたげてくるが、地図を見る限りだと黒姫駅から野尻湖まではそれほど距離も離れていなさそうだ。実際のところ、バスに揺られること20分ほどで、野尻湖にたどり着くことが出来た。

 野尻湖でナウマンゾウの臼歯化石が発見されたのは1948年のことである。はじめは朽ちかけた湯たんぽが捨てられているのかと思われたそうだが、それが今は絶滅したゾウの化石だと分かるや侃侃諤諤の議論の末、とりあえず発掘調査をしてみようと言うことになった。すると、出るわ出るわ。ナウマンゾウやオオツノジカと言った生物の化石はもとより、同時期に野尻湖範囲暮らしていた石器時代人の生活の痕跡を伝える遺物も大量に出土した。ナウマンゾウ博物館はそうした出土品の展示を行う博物館である。

 バス停で降りた後、博物館につくまで多少迷子になりかけたが、本来道に迷うほどの場所ではなかったため、どうにか博物館入口に到着。さっそくナウマンゾウの像による出迎えを受ける。

 博物館の建物はそれほど大きくない。ことによると実質的な信濃町博物館のようなものなのかもしれない。ここでも現在の大河ドラマの内容を受け、期間展として川中島合戦に関する展示も行っているようだったが、メインはあくまで自然史の方である。入口で入場料500円也を払って入館すると、いきなり巨大なツノジカに迎えられた。とんでもなくでかいシカだ。奈良の春日公園とか秋の宮島にいるシカも、草食動物ながらまれに獰猛な一面を垣間見せることがあるが、これだけのサイズとなると性質がどうとか食性がどうとか言う以前に、その巨大さが脅威であり、生活圏を同じくして共生していくことは難しそうだ。人間などがうかつに彼らの進路に立ちはだかろうものなら、あっさり蹴り殺されてしまいそうである。同じフロアにはナウマンゾウの原寸大模型もあり、オオツノジカのそれと向き合う姿は、まさしく怪獣大戦争の趣を呈している。

 ちなみにこの模型、制作された時期が古いため、ナウマンゾウに関する最新の研究成果に照らすと若干おかしなところもあるそうだが、ナウマンゾウとはいかなる生物だったか、見学者がイメージを働かすには十分である。模型からうかがい知れるナウマンゾウのサイズは、現在動物園で見られるアジアゾウなどとそれほど変わらないような気もするが、ゾウそのものをこれほど間近で見たことがない。メインになるナウマンゾウの化石は、まるっと一頭分発掘されているわけではなさそうだが、歯の化石などは直接手を触れることも可能である。なるほど、事前に聞いていた通り湯たんぽみたいな歯なのだが、触ってみるとブリキの湯たんぽとは全く異なる質感を持っている。博物館内にはゾウの化石のほか、かつて野尻湖周辺に暮らした人たちが残した遺物なども展示されている。野尻湖周辺には、「キルサイト」と呼ばれるゾウの解体作業跡が見つかっているのだそうだ。小振りな博物館ではあるが全体をゆっくりめに見て回ると30分ほどかかる。いつもの旅行では人文系の博物館を見て回ることの方が多いため、たまにこういう自然史博物館のようなところに来てみると楽しい。

 ナウマンゾウ博物館を出る。黒姫駅と野尻湖を行き来するバスは1時間にそう何本もあるわけではないため、バスの時間まで湖の近くをうろうろしながら時間を潰す。天気も良くないし、夏の避暑シーズンでもないし、ウインタースポーツのシーズンには程遠い、いわゆるオフシーズンにはまり込んでいるような気がするのだけれど、湖畔には思ったよりも人がいる。沖の方にはボートも出ている。さすがにレイクサイドレジャーを楽しむような時間的余裕もなく、またやさぐれ男の一人旅にそういう遊びがなじむとも思えなかったため、缶コーヒーを買うと湖畔のベンチでそれを飲みながら、呆けたように遠くの山を眺めていた。

 そうこうするうちにバスの時間がやって来る。大過なく黒姫駅行きバスに乗り込み、これまたつつがなく駅に到着。このバスが信越線のダイヤに配慮して運行されているものなのか、駅についてからほとんど待ち時間もなく電車に乗り込むことが出来た。どうも信濃町の出身らしい小林一茶の資料館に気持ちが残っていたものの、先を急ぐ旅だったので、後ろ髪を惹かれる思いで車上の人となった。






おやきを食べに TOP 北陸路を行く








100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!