棚田のある風景

 10分か、あるいは20分ほどだったか定かではないが、どうにか輪島の中心部に到着。国道249号線に合流できてほっと一息つき油断していると、交差点で右折しかけた前の車が突然止まったため、危うくカマを掘りそうになった。どうも前車を運転していたおばあちゃんが、信号待ちの車に見知った顔を見つけたため、世間話をするために車を止めたものらしかったが、そんなことで急停止され、挙句に追突事故の加害者にされたらたまらない。田舎ではこの種の行動がいきなりの高齢ドライバーも珍しくないのがちょっとした悩みの種ではある。国道の真ん中でおしゃべりを始めてしまったおばあちゃんをやり過ごし、彼女らの姿をバックミラーに見ながら気を引き締める。

 とは言うものの、いったん249号線に合流してしまうと、そこから白米千枚田まではそれほどの距離ではない。気合を入れなおしたのも束の間、千枚田を望む道の駅「千枚田ポケットパーク」に到着。ここがちょっとした観光地と化しているらしく、少々狭めの駐車場内には大型の観光バスなども停まっており、代わりに?自車を停められるスペースが見つからない。もちろん観光バスは専用スペースに停車しているのだが、それ以外の一般車もかなりの数なのだ。どうしようかと考えた矢先、タイミングよく一台の車が発進した、勿怪の幸いとばかりにオープンスペースに走りこんだ。それにしても、どうと言うこともないバック駐車だったのだが、一撃で決められなかったのは悔やまれる。一度の切り返しの後に、駐車スペースに車をねじ込んだ。金沢を出てからちょうど2時間ほど、しばらく運転していなかったので2時間の連続走行でも思いのほか消耗した。この先、安全のため休憩は多めに取らねば。

 ともあれ、そこそこ楽しみにしていた千枚田の様子を見るため、棚田に面した崖沿いの手すりへと小走りに進む。……!実は今回、訪問時期の関係から一面の棚田が黄金色に波打っている様を期待していたのだけれど、稲穂はまだ緑色をしていた。少し残念。

 実を言うとこの千枚田を見るのは三度目なのだけれど、いつもこのポケットパークの高台から眺めるだけで、間近まで近づいてみたことがなかった。今日は少し時間があるのと、少々体を動かしたくなったのとで棚田の方へと降りていく。道の駅にたむろする観光客の中には、そこまでする者は少ないようだった。

 白米の千枚田には、実際には1004枚の田が存在している。もちろん、その一つ一つのサイズは非常に小さい。稲作体験用に設けられた小学校内の学習教材用水田並みのミニサイズで、当然のことながら生産性はさほど高くなさそうに見える。労働集約的農業の究極とでも言うべき光景だが、千枚田とは言いながら実数はそれ以上というのは評価したい。こういう場合、「千」は非常にたくさんと言う程度の意味で使われ、実数はそれに届かないと言うことも珍しくないことも多いのだが。もっとも、千枚田地区の一隅に掲示された解説板によれば、千枚田は「狭い田」からの転訛ではないかと考えられてもいるらしい。同解説板では、この白米千枚田は肥料が一般の田の四分の一ほどで済み、病害虫は少なく、味も良いと、良い事尽くめのように書いているが、実際問題としてこの様子では大型の作業機械が入れられそうにない。昨今の農業において、これは大きなディスアドバンテージとなるだろう。ここで生産を続ける13戸の農家の人には頭の下がる思いだ。まあ、話題性のある変わり米としては悪くないか。やはりちょっと食べてみたくもある白米千枚田産の米の収量は、毎年約二石六斗(240kg強)ほどだそうである。






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