オーサカ迷子

 この14時という時間帯が曲者だった。実を言うと、東海圏脱出にもう少し手間取る予定で、大阪駅着はさらに遅い時間帯になるのではないかと踏んでいたのである。ムーンライトの出発まで、まだ8時間もの待ち時間がある。大阪という街にはあまり詳しくはないのだが、適当に市内観光をしなければならない羽目になった。

 もちろん、行く当てなどない。こういう事態も想定して、多少は人から大阪のお奨め観光スポットを聞いていたのだけれど、皆異口同音に「ユニバーサルスタジオ」と答える。たかが暇つぶしのために何千円かを払って、しかも一人でこの一大テーマパークに出かける気になどなれようはずもなく、以前内部を見学できなかった大坂城と、そのおまけの真田丸、通天閣のビリケン様でも見られれば十分かと漠然と考えていたので、とりあえずは大坂城に行ってみる事にした。旅のお供として常に携帯しているMAXマップルの関西版を見ると、大坂城は大阪駅の南東方向2〜3kmのところにある事になっている。散歩がてら歩くにはちょうどよかろう。

 しかし都市部を歩いている最中に東西南北を正確に理解するのは意外に難しい。陽光の差し込み方から方向を判断するのは口で言うほど簡単ではない。名古屋の中心部などは碁盤目状に整備されているのでかなり分かりやすいのだけれど、大阪の街並は雑然としており、南北方向の把握にすら失敗し、目的地とは正反対の新大阪駅方向に向かってしばらく歩き続けるという失態を演じた。マップルによると阪急電鉄の梅田駅が大阪駅の北側にあるように描かれていたのだが、実際に大阪駅の南口を出た時にいきなり「梅田駅」の文字が視界に飛び込んできたので「これはイカン」と反対側から駅を出たため勘違いが始まったのである。梅田駅がかなり大きな駅であるためこのような現象が起こるのだろう。数々の旅を共にしてきたマップルのことを悪くは言いたくない。

 ともかく30分あまりのタイムロスがあったのだが、この場合どうせ暇つぶしに歩いているのだからそれもまたよかろうと考え直し、有名な御堂筋を南方向に向かって歩き出す。駅から5分程歩いたところにある梅田新道東交差点は国道1号線の終点となる交差点で、以前1号線トレースを行った時には到着時刻が遅くなったためロクな写真も撮れずに終わっていた因縁のある交差点でもある。今回、大阪府の道路元票と共に梅新交差点も新撮、さらに道100選の一つに選ばれている御堂筋も新たに写真を撮りなおした。ただ御堂筋に関しては、適当な撮影スポットでの新撮だったかどうかは疑わしい。道100選は、日本各地に暮らす人たちが地元の誇る名道を対外的に推薦するような形で選考されており、従って道そのものの表情がさほど印象的ではなくとも、地元民にだけ分かる思い入れによって入選しているものも珍しくない。御堂筋はどうもその強い思い入れによって100選に選ばれた道のような気がしないでもない。

 大阪城公園に入った時にはすでに15時30分を回っていた。地図上、大阪駅からの直線距離は大したものではないように見えたのだけれど、地理不案内の土地をあて無しに彷徨するように歩いたため思ったより時間がかかった。このままではまたしても城の内部展示は見られなくなるのではないかと思ったほどだ。

 大坂城と対面するのは3年ぶりになるのだろうか。前回来たのは姫路へ向かうたびの途中だった。その時の感想は大坂城サイドにとっては手厳しいものだった。なるほど、外装は絢爛豪華なのだけれど、天下の巨城を謳うには少々小振りな印象を受けたのである。今再び大坂城を眺めてみると、やはり特筆するほど大きく圧迫感のある城には見えない。今回はその原因についても考えてみたのだけれど、どうやら天守台が小さめに作られているために全体が小さく見えているような気がする。上に乗っている建物は、名古屋城あたりと比べてみても少しも引けはとらない。

 入場料600円也を払って城の内部に入る。復元天守の内部は多くの場合に歴史資料館となっており、大坂城もその例に漏れなかった。各城が特色を出すのはその展示内容、何に力点を置くかという部分である。大坂城はやはり、徹底して豊臣秀吉と大坂役をフィーチャーしていた。日本史上稀に見る大出世を遂げて大坂の街の礎を築いた人物と、最後の一大戦国合戦であるから妥当なセレクションなのだろう。そのあたりに興味のある人ならば、大坂城の建物そのものとは切り離しても見応えのある展示である。ちなみに私はここに例の「黄金の茶室」があるのだと思っていたのだけれど、今調べてみるとどうもこれがあるのは伏見城の方らしい。

 展示物の見学を終えて天守閣の外に出る。前回撮影の大坂城写真は曇天の夕方というかなり悪条件下のものだったため、これまた撮り直し。こうして見ると大阪の町とは色々な因縁があったようだ。それだけ片付けると、天守直下に設えられたベンチに座ってカフェオレを飲みながら今後の過ごし方を考え始めた。ここから、どんなに時間を稼ぎ稼ぎ大阪駅まで戻っても、いいトコ18時過ぎくらいにしかならない。待ちはなお4時間余りも残されることになる。とりあえずの時間稼ぎのため目の前にある土産物屋を物色してみた。その中にたこ焼きをかたどったドラえもんのキーホルダーを見つけた。結構出回っているものらしく、私も以前人から同じ物をもらったことがある。憎からず思っていた人からのお土産で、「400〜500円位の品かな」と密かに値踏みしていたのだけれど、どうやら700円か800円程はするもののようで、「私が思う彼女の中の私の価値」を他ならぬ私自身が低く見積もっていたことに複雑な心持になった。私が思っている倍近く(絶対値で言えば300円か400円の差だが)に彼女は私のことを評価していたのに、その思いを踏みにじるようなことをしていたのは心苦しい。大体、保険のCMではないが、愛情の深さを金額で図ろうとする発想が下衆そのものではないか。大阪の片隅で見つけたドラえもんのキーホルダーは、ごく小さな幸せと共に、それ以上の暗澹とした気持ちを私にもたらしたのだった。






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