月は朧に

 大阪駅への戻りはJR線(大阪環状線)を利用する。これまででいささか歩き疲れた。大阪城公園駅から京橋駅を経て大阪駅へと戻るルートなのだけれど、途中で何を錯乱したのかわざわざ方向違いの片町線へと乗り換えそうになり、これがまた無用のタイムロスとなる。もっとも、これからさらに5時間近い空き時間がある状況下では、これもいい暇つぶしだったのかもしれない。

 そうやって大阪駅へと戻ったは良いが、戻ったところで何をするという予定があるでもない。時計は18時を回ったタイミングで、夕飯時といえば夕飯時だったのだが、それにしてもまだ少々早い時間のような気もする。仕方無しに大阪駅の構内をぐるぐると回る。パン屋がから漂う甘ったるいパンの匂いが無性に食欲をそそるが今は我慢。

 何をするでもなくそぞろ歩く大阪駅は、すでにそのキャパシティの限界を迎えているような気がした。集客量に比べて通路などが絶対的に狭く、とにかくぶらぶらと歩くだけでも非常に窮屈な思いをしたものである。建物も老朽化が進んでいるようで、そろそろ耐用年限が迫ってきているのだろう。向こう十年のうちには大掛かりな改修工事でも行われることになるのだろうか。名古屋の駅に比べるとホームレスハウスが多く目に付き、また歩きタバコが野放しになっているため、何となく場末感が漂う。まあ表面的な清潔感を確保したかに見える名古屋にしたって、要は万博向けにホームレスと路上喫煙者を強制排除したのであって、舞台裏まで見てしまうと決してスマートなものではない。

 さてそんなことをしているうちに、ひょんなことから仲良くなった女の子がいた。ちょっと言葉を交わしている時に私が名古屋から来て鹿児島へと向かう旅の途中である事を告げると、そのことにいたく興味を持ったようだった。名古屋人にあったら聞いてみたかった話として名古屋の景気概況と万博、例の名古屋ブスのことを尋ねられ、また自分は愛媛出身(今にして思えば愛知と字面が似ているから愛媛の名前を出したのだろう)である事などを話し、九州には温泉もたくさんあって良いというような事を言われた。何でも大学受験で宮崎に行ったことがあるのだそうだった。今回は残念ながら宮崎は全く通りもしないのだけれど、いつかは高千穂の嶺にも行ってみたい。また、愛媛の道後温泉も一度は出向きたい場所のひとつだ。ただ、写真などで有名なあの旅館も、実物を見ると案外大したものではないのだそうだ。

 殺伐荒涼を旨とする私の旅としては異例中の異例とも言える出会いだったが、あまり長話を続けると確実に好きになってしまいそうだったので、耐え難きを耐え忍び難きを忍び視線を前途へと向ける。さしあたっては今夜の飯の心配をする必要があったのだけれど、これは例によって例の如くお初天神通りの吉野家で豚丼をかっ込む。並み盛がいつのまにか10円値上がりしていた。そう言えば吉野家にもしばらく来ていなかった。

 ここまで終わらせて20:30。まだあと1時間半の空き時間がある。一体これからどうしようか。意味も無く新大阪駅に移動してみることを考える。ムーンライト九州は全席指定制の快速列車で、指定券がなければ乗車できないことになっている。私が抑えた指定席はあくまで大阪と博多を行き来する区間のものであって、始発駅の新大阪(ちなみに以前は他のムーンライト系列車がそうであるように京都駅始発だったそうだ)から博多までの全区間に対して効力を発揮するものではないので、厳格に言えば新大阪から大阪までの区間、私はムーンライトに乗車することができないのだけれど、普通列車でも1区の両駅を有料指定券が必要な列車で移動する酔狂人がいるとも思えず、そういう意味では新大阪から目的の列車に乗り込むのも許容範囲のことだったのかもしれない。ただ、先ほど仕入れた情報では、多くの駅がそうであるように、大阪の場合も新大阪駅界隈より「旧」大坂役界隈の方が開けているということだったので、暇を持て余しながらも大阪駅構内をひたすらうろつく。ついにはそれにも倦んできて、ずいぶん早めに出発ホームで待機するに至ったのだけれど、あの大阪の夜は寒かった。






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