中天に月は輝く

 かくして待ちに待ったムーンライト九州が到着。あらためて考えると22:08発の電車に間に合わせるためにえらく早く大阪に到着し、ずいぶん長い間待ったものである。

 ムーンライト系の車両が特急仕様になっているという話は以前にも聞いていた。なるほど、座席シートのスペースは比較的ゆったりと取られており、大きく背もたれを倒すことのできるリクライニングシートになっている。一応更衣室(というか試着室のような更衣スペース)も用意されている。ただし、特急は特急でも一昔前に退役した車両を引っ張り出してきている印象だ。古色蒼然と言うほどではないにせよ、大阪駅辺りから発着し最前線で活躍している現役特急車両に比べるとどうしても見劣りがする。車内に自動販売機はあれども稼働していないし、もちろん車内販売もない。結局ムーンライトは快速列車でしかないのでそのあたりは仕方がない。大阪駅電光表示板で見かけた「Rapid Moonlight」という独特の英語表記からも、この快速が特殊なポジションを占める列車であることを印象付けられた。

 さて、私が乗り込んだのは数あるムーンライト系の列車の中の一つに過ぎず、ムーンライト一般がそうなのかどうかはよくわからないのだけれど、ムーンライト九州はディーゼル車であった。乗り込んでみると並みの電車に比べてかなり騒音も大きく、細かい振動もあるような気がする。極めつけは、これはどうやらこの時に乗った車両特有の問題のようなのだが、時々「ガクン」という感じの、急ブレーキがかかった時のような大きな振動が襲ってくるのも気になるところであった。特にJR西日本は福知山線の脱線事故の事があるために、ナーバスになっていたのかもしれない。年末三連休初日の夜で、乗車率は60%強といったところだっただろうか。二つ並んだボックスシートを見渡してみると、同時に隣接席の指定券を入手したであろう数人連れを別にすれば、窓側の席のみが埋まり通路側は空いたままという状況も目立つ。

 にも拘らず、私の隣席は姫路あたりまで進むうちに埋まってしまった。どうやら軽い鉄道マニアらしい四十がらみの男が同行の客となったのだけれど、この男、席に座るやいなや靴下を脱ぎだすと乱雑にそれを丸め、そのまま前座席背面の網ポケットにねじこんでしまった。傍から見ているとはっきり言って気分の良いものではない。そんな私の苦々しい気分を知ってか知らずか、男は間もなく高いびきで眠りに落ちていった。男の振る舞いは、旅慣れているといえば旅慣れているのかもしれないが、真に熟達した旅人と言うのは、周囲に不快感を抱かせないスマートな立居振舞というのも身につけているのではないかと、それからしばらく悶々と考え続けることになってしまった。スリッパぐらい用意しておけよ。余り快適とはいえないディーゼル車の乗り心地が眠るに眠れない鬱屈した状態に拍車をかける。結局岡山あたりで日付が変わり、18きっぷ2回目の入鉄までは眠れないままだった。

 それにしてもこのディーゼル車と言うのは、いわゆる電車に比べると馬力があるものなのだろうか。そのあたりのことはよくわからないのだけれど、ムーンライト九州(下り)は、夜明け近くに関門海峡を渡る直前の下関駅で、機関車との連結作業を行うものらしい。短いながらも海底トンネルを抜けるための準備作業なのだろう。当然のことながら自走能力のある列車に機関車をくっつけるのだから、ムーンライトはいかにも力強く海峡を渡っていく。まあ、たかだか数分で走り抜けるトンネルの前後で機関車の着脱作業が発生し、そのための停車時間が発生するのは辟易するのだけれど。

 こうしてついに九州上陸を果たす。しかし一つ誤算があった。九州では午前七時を回る時間になっても未だ辺りは薄暗いままなのである。






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