流浪の九州

 九州の公共交通事情は、鉄道も含めて決して良好とは言えない。実は当初、今回の旅行では最終目的地の前に佐賀県唐津市(旧鎮西町)にある名護屋城址に寄って行くつもりでいたのだけれど、いざ列車時刻を調べてみるとそうした場合、朝の8時に博多を出たとしても当日中に鹿児島に着くことが厳しいことが分かった。もちろん、18きっぷ利用=鈍行のみ利用という縛りを設けた上での話なのだが、鉄道の本数が少ないところに加えて近隣を通る路線バスの運行間隔も長く、タクシーでも使わないことには長時間の足止めを食うことになってしまうのだ。18きっぷ旅の利点を考慮するのならば、タクシー利用という選択肢はよほどの事がない限りオミットしたいし、ちょっとばかりタクシーを使うぐらいなら最初からマイカーで乗り込むかレンタカーでも借りるかした方がずっと快適な旅行ができる。それでなくても今回は、帰路において18きっぷの効果適用範囲外である新幹線を使うことになるため、移動のためにあまり金をかけたくない。

 かくて名護屋城行きはふいになったのだけれど、そうすると寄り道のあてがなくなってしまい、鹿児島着が無駄に早まってしまう。途中の熊本では熊本城を見ていくつもりなのだが、それにしても間延びした一日を過ごさなければならなくなる。そこで色々と名護屋城の代替案を考えてみた。佐賀市まで行って佐賀城を見ようとか、熊本近郊の石橋を見て回ろうとか、プランはいくつかあったのだがやはりどれも日程全体との折り合いがつかない。そんな折にふと目にとまったのが今流行の「大人の社会科見学」という文字で、なぜか反射的に思い出したのが吉野ヶ里遺跡のことだった。

 言わずと知れた話ではあるが、一部では邪馬台国の遺構なのではないかとも期待されるこの遺跡は、弥生遺跡としては全国屈指の規模を誇るものである。一度は話の種に見ておくのも悪くはない。そう思って調べてみると、遺跡があるという吉野ヶ里歴史公園から至近のところに吉野ヶ里公園というJRの駅がある。これはちょうどいいということで、とりあえずは吉野ヶ里に行ってみることに相成った。

 ムーンライトの博多着が7:54。そこから20分ほどの乗り継ぎ時間で鳥栖方面行きへの列車に乗り換える。そこから約30分も電車に揺られると鳥栖の駅につく。「トス」という響きからなんとなくバレーボールを連想してしまうのだけれど、鳥栖駅から目と鼻の先にはサッカーチーム・サガン鳥栖のホームグラウンドである鳥栖スタジアムがある。ただ、鳥栖の駅そのものは決して大きなものではない。長時間の待ちが発生すると時間つぶしに苦労しそうだが、幸い佐賀方面への乗り継ぎは4分程で済むことになっていた。私の乗る列車がホームにつく頃には乗り換え先の電車がホームで待機していた。ここからさらに20分ほど、長崎本線の田舎の線路を電車に揺られていくと吉野ヶ里公園駅に到着する。

 正確なところは調べていないのだけれど、吉野ヶ里公園駅は遺跡の整備以降に新設された駅なのか、駅舎は同じ路線の他の駅に比べて真新しい。駅名からも分かる通りに吉野ケ里遺跡あっての駅で、駅近くからは復元された同遺跡の環濠集落を遠望することもできる。ただし、ここで「遠望」と表現したのは伊達ではなく、駅から簡単に視認できるわりには駅から公園までは距離がある。吉野ヶ里での自由時間は1時間強に過ぎない。もともと「広大な公園なので全てを見て回るには数時間かかる」という情報は得ており、遺跡まで行ったとしても公園の入口辺りをふらついた後は速やかに駅に戻るつもりでいたのだけれど、実際に行ってみるとそれさえも厳しいことが分かってきた。厳寒の田舎道を2、30分歩いてようやく公園の入口までたどり着いたが、往路の所要時間を考えれば、本当に何をするでもなく引き返さざるを得なかった。何か収穫があったとすれば、九州とは言っても想像以上に寒いという情報だけだった。






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