3月12日午前8時前。博多駅に隣接のバスセンターに到着。被災地から遠く離れた九州の地ということもあり、街には別段混乱した様子も見られないが、しかし東北の状況は気にかかる。夜半から、携帯のニュースサイトなどを見ながら事態の推移について注意をしていたのだけれど、マスコミですら未だに大系だった情報はつかめていなさそうだった。バスは、道中の壇ノ浦パーキングエリアで、一度休憩を取っており、そこで新聞が買えるようだったらそうしたかったのだけれど、規模の小さなPAだったからか、時間帯がまずかったのか、とにかく思惑通りには行かなかった。
九州では名実共に最大の駅である博多駅。そこに到着したからには、キヨスク辺りで新聞でも買って、基本的な情報だけでも収集してみようか。
しかし、最近改装工事が終わったらしい博多駅の中へ入ってみると、新聞を手に取る前から、地震の影響の大きさを思い知らされることになった。まず鹿児島本線や長崎本線の有明海沿岸部の区間で列車が全面運休となっており、現在走っている列車についても、遅れが出始めているという。それはどうやら、津波による被害を懸念してのものらしかった。昨日名古屋を発つ段階では、確かに伊勢湾岸にも津波警報が発令され、名古屋市内でも港区をはじめとして警戒態勢が取られていたはずだが、まさか九州の、しかも太平洋の反対側のような有明海沿岸部にまで津波の余波が押し寄せていようなどとは、考えてもみなかった。空は晴れ、言われなければ日本のどこかでそのような天変地異が発生したことなど、思いも及びそうにない。
とにかく、列車運行情報を総合すると、まず荒尾まで進むことは可能だが、その先、熊本までの移動手段がない。熊本から先についても同様だ。さらに八代から先は、以前の鹿児島行きと同じように三セク線である肥薩おれんじ鉄道に乗り継ぐつもりなのだが、有明海の外海・東シナ海の、波打ち際にも等しい海岸部を走るこの路線が、津波に対する警報・注意報と無関係に運行しているとも考えにくい。おれんじ鉄道の携帯サイトを開いては見たものの、地震の影響については全く言及がないのが、かえって頼りない。
頭を抱えながら、駅の売店で朝刊を買い求めた。大災害の後である。各紙とも、その報じる内容に大差はないと思われた。一面には被災地の無残な状況を大写しにし、東日本で巨大地震が発生した旨の大見出しが踊る。これと言う考えもなく、読売新聞を買ってはみたが、今朝方から携帯で収集してきた断片的な情報以外に、大きな収穫はなかった。地震の規模、発生のメカニズム等に関する説明には見るべきものがあったが、新聞と言うメディアが、速報性という点では致命的に劣る、過去の遺物となりつつあることが感じられた。目新しい情報と言えば、今日九州各地で催されるはずだった九州新幹線全通に関するイベントが、軒並み中止となったこと程度だった。
それはさておき、ここまで来てしまったからには、今回の旅行をいかにして遂行するかである。何にしろ電車のダイヤは混乱しているので、多少の時間はある。立ち食いそばならぬ立ち食いラーメン屋で、長浜ラーメンでもすすりながら作戦を練ることにする。
当初の予定では、今日は18きっぷを使って鈍行（肥薩おれんじ鉄道を含む）で鹿児島まで移動するのが基本線であった。日程の都合上、立ち寄り先は実質一箇所に限られそうだったが、その立ち寄り先の選択肢として考えたのは三つ。まず第一に、博多駅からは少し北にある立花山城址。第二に、鳥栖から佐賀方面へ移動して吉野ヶ里遺跡。第三に、何度か興味を引かれながら未訪となっている熊本の北方・田原坂。
列車の運行状況から言って、朝一番から田原坂を目指すと言う線はなくなった。後は立花山城か吉野ヶ里と言うことになる。立花山城址は、最寄り駅となる福工大前駅からのアプローチが長く、また山城である。一応、明日の予定として開聞岳登山を考えているから、連日の山登りは避けたい気持ちもある。そういうわけで、今回は吉野ヶ里訪問という方針に舵を切ることになった。数年前の私なら、体力の消費も厭わず、立花山城を攻めていた気もする。惰弱になった。
とまれ、当面の行動方針は決まった。あとは腹ごしらえである。朝からラーメンなどと…とは思うのだが、それにしてもこの立ち食いラーメン屋は大層な賑わいで、キャパシティの限界近くまで客が入っている。肩をすぼめながらラーメンをすするのはいいが、この客の入りは、店のおばちゃんの客あしらい能力の限界をも超えてしまっているようで、朝なのにおばちゃんが徹夜明けのようにお疲れ気味なのが気にかかる。この店、私が5年前に九州へ初上陸した時には、「かわいらしいお嬢さん方が暇そうに店番をして」いたはずなのだが、大層な違いである。
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