薩摩の秀峰

 開聞岳は、薩摩富士の二つ名の通り、古くから薩摩の秀峰として知られてきた。深田久弥による日本百名山の一つにも選ばれているが、他の山々に比べると、格段に標高が低い。それでも深田をしてこの山を百名山の一つに選抜せしめたものは、その山容の端麗さであろう。二重火山と呼ばれることもあり、山体下部がコニーデ、上部がトロイデとなっているとされる。ちなみに標高は924m。これまた良く指摘されることだが、海面から突き出すような山であるため、いざ登山の対象とするとなると、約900mを登る形になるので、標高の割には登り応えがあるとも言える。

 開聞岳に登るのは、これが初めてではない。初めての鹿児島旅行の目的こそが、実は開聞登山だった。途中あちこちに寄り道はしたが、それだけのために鹿児島にやって来て、山を下るとそのまま鹿児島を後にしている。

 今回は、下山後は知覧へ足を運ぶ予定だが、とりあえず朝一番で、鹿児島中央駅前でレンタカーを調達し、そのまま国道226号沿いに南下する。226号は海岸の道だ。未だに威力が減衰していないと言う津波の存在が気がかりではあったが、実際目に映る海は穏やかそのもので、過度に意識さえしなければ、快適なドライブだった。

 指宿市に入り、まずは長崎鼻を目指す。何しろ一度登ったことのある山である。展望という点では悪くない山だが、コース自体はさほど特徴的であるとも言えず、傑出した面白味があるわけでもない。今回は、開聞岳の秀麗な姿を写真に残しておきたい思いが強かった。そういうわけで、海越しに開聞岳を望むことになるであろう長崎鼻パーキングガーデンにやってきたのだが、確かに木々の隙間から開聞岳はその山陽を覗かせているのだけれど、どうも写真栄えのするポイントがない。そこでJR最南端の駅である西大山駅へ移動する。ここは無人駅ながら、開聞岳の撮影スポットとしては極めてありふれているし、記念撮影を目的にタクシーで乗り付けてきた他の観光客が、目にもまぶしい真黄色のポストの前で記念撮影をしている姿も目に付く。幸せの黄色いポストか。

 西大山駅は何と言っても定番の撮影スポットであるだけに、素人カメラマンの腕であってもそれなりの写真を撮ることができるのがありがたい。幸い今日は天気も良く、まずまず程度の良い写真を撮ることができた。そして撮影を済ませた後、登山本番を迎えることとなった。

 前回は開聞駅で列車を降りたところから、ひたすら自分の脚で、上へ上へと歩き続けたが、今回はかいもん山麓ふれあい広場の登山客用駐車場に車を停め、ここを山歩きのスタート地点にする。実質、1.5合目辺りまでは車で登る形になるだろうか。樹間の山道が始まるのは、2合目からだ。以前に来た時は、2合目登山口には、いかにも古色蒼然とした看板があったものだけれど、それがなくなっているところに、時の流れを感じた。あれからもう5年になる。

 開聞岳の山裾近くは、見るからに火山灰土という雰囲気の、ぼろぼろと崩れやすい黒っぽい土が堆積しており、ともすれば足を取られるのではないかと不安になるのだが、幸か不幸か前夜に雨が降っていたためか、思ったより足場はしっかりしている。もっとも、脆い地質であるのもまた事実なのか、登山道には、水の流れによって深くえぐられたと思しき箇所もある。

 開聞岳の登山道は、螺旋軌道を描いていることで知られる。私の脚だと、1合進むのにおよそ10分見当のペース。7合目過ぎには仙人洞と言う岩穴があり、以前は「この穴に杖を投げ入れて登山の安全を祈願する人がいる」と言うような解説がされていたはずなのだが、どうも杖の投げ入れが問題になったらしく、問題の箇所は「杖・棒切れの投げ入れ禁止」と言う張り紙で覆い隠されていた。5年前のあの時からでさえ、登山者が増えていると言うことなのだろうか。8合目辺りまで来ると、道はそれなりに険しさを加えてくるが、そこを乗り越えて、どうにか山頂に到達。

 前回登山時は完全に雲に包まれてしまっていて、展望も何もあったものではなかったが、今回はどうにか山麓の様子を見下ろすことが出来る。前回の下山後に世話になった路線バスの運転手のおじさんの言葉によれば、条件が良ければ屋久島の宮之浦岳でさえも見える山頂だということだったが、春霞がかかっていたため、さすがにそこまでは望めなかった。一般にハイカーが気軽に出入り出来るのは、山名票と三角点がある岩場周辺に限られるのだが、山頂付近には意外となだらかな広がりがあり、森林に覆われている。なお、山頂付近には御嶽神社もある。

 2合目登山口からの所要時間は1時間半。このタイムも前回と変わらずで、同じ道を引き返した下山タイムも、およそ一時間半。体力面で5年前から大きな低下が見られなかったことを最後の収穫に、2011年の開聞岳登山は幕となった。






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