火を吹く島、再び

 桜島に渡って、まず最初に向かったのが「叫びの肖像」と名づけられたモニュメントである。鹿児島出身の長渕剛が、2004年8月に同地でオールナイトコンサートを行ったのを記念して、桜島の溶岩を用いて製作されたものだという。周辺は、現在ではまさに採石場そのもののような荒涼とした風景が広がっていて、その時の様子が想像できない。

 次いで、溶岩道路を垂水市側へと走り、大隈半島に渡ってしまう直前で、左折・北上。前回の旅の時には、ちょっとしたボタンの掛け違え程度の理由で訪問の機会を逸してしまった、黒神の埋没鳥居へ。

 桜島は元来、その名の通り、錦江湾に浮かぶ島だったのだけれど、大正時代にあった大噴火の時、島の南東側に溶岩が流れ出し、結果、大隈半島との間が陸続きになった。この時、同じく島の東側にあった黒神集落は、大量の火山灰と噴石に見舞われている。そして、その歴史を物語る遺物となっているのが、埋没鳥居というわけだ。もともとは高さが3mある鳥居だったのだそうだが、現在では火山の噴出物に埋もれ、わずかに笠木の部分が地上に顔を出しているに過ぎない状態になっている。その様自体はテレビなどで何度か見たことのあるものだが、埋もれた鳥居をあえて掘り出さなかったのは、当時の村長の指示によるものだったという。まさか21世紀の今こうして、一種の観光地と化しているなどとは思いもしなかっただろうが、普通なら掘り出したくなるところを、噴火のすさまじさの証人とすべく、現場保存という道を選んだのは慧眼だったと思う。なお、鳥居のある腹五社神社は黒神中学校に隣接しており、その関係で鳥居の傍らにある小屋には、全校で十人ほどらしい黒神中の生徒の手になる、手作り感あふれる資料が掲出されている。情報の出所はネットであることが多いようで、桜島マニアとか火山マニアとか、既に独自のルートで凄い情報を持っていそうな向きには少し物足りない内容かもしれないが、微笑ましい展示である。

 桜島南側を走る国道224号は、鹿児島市から大隈へ移動するための最短ルートとして、十分に整備されているが、島の北を周回する県道は、黒神周辺から道幅が狭くなり、島民の生活道路という趣になってくる。過去に走った能登半島外浦と、どこか似通った雰囲気のある海沿いの道だが、それよりははるかに人も多そうだ。ここを西側へと突っ切り、最後に湯之平展望台に登って桜島観光の締めとする。

 便数が多く、24時間稼動だというフェリーの港に近いこともあるのか、島でも鹿児島市街に面した西側は、わりと人も多いようである。ちょっとした集落の中にある信号交差点を左折し、島の中心・御岳(北岳)に登って行くかのような山道へと進む。ただし、相手は日本有数の活火山だ。当然、無制限に火口側へ近づけるはずもなく、これから向かう湯之平展望台こそが、もっとも火山(南岳)に近いところとなる。それにしたって、北岳の山腹というような場所なのだが、さすがにここまで来ると灰が良く降っているらしい。車のフロントガラスが、見る見る白く霞んで行く。余りに鬱陶しいので、うっかりワイパーを使ってしまい、結果的には灰をぬぐうことは出来たのだけれど、どうもこれをやるとガラスを傷める危険性があるため、心得た鹿児島市民はまずそういうことはしないというNG行動だったらしい。

 ともあれ、展望台の駐車場にたどり着いたので、車を降りて展望台に向かう。火山灰の微粒子が舞っているせいか、目がチカチカする。また、くだんの展望台は、時宣を得れば売店か何かを備えたそれなりの観光施設として営業していそうにも見えるのだが、私の訪問時には、シャッターが閉ざされ、何よりあたり一面灰まみれになっており、廃墟のようなたたずまいであった。ここからは、北岳の様子は良く見えるのだけれど、さほど距離がないはずの鹿児島市街は、霞んでしまって良く見えない。当然灰のせいもあるだろうが、太陽が大分西に傾いてきて、陽光が灰に乱反射してしまっていることもあるのだろう。

 薄くとは言え、灰が降り積もって何が書かれているのか分からなくなっている説明パネルの表面をぬぐうと、桜島のあらましが書かれていた。それによると、桜島は姶良カルデラと呼ばれる火山地帯の核で、これは錦江湾を取り囲む山並みを外輪山としているのだそうだ。5000年ほど前までは北岳が、それ以降は南岳が活発に活動しているのだという。桜島観光の最後というタイミングになってしまったが、その何たるかを知ることができ、目からうろこが落ちた気分である。

 改めて、展望台から見える大隈から薩摩にかけての山並みを、「これが外輪山か」という思いで眺めてみる。その壮大さに感嘆させられると共に、鹿児島の街並みが視界に飛び込んできたときに、ふいに里心が付いたような感覚を覚えたので、山を下り、市街へ戻ろうと思った。






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