大阪算

 青春18きっぷはいわゆる「鈍行列車」にしか乗れない。私はつねづねこの「鈍行」という言葉に違和感を抱いている。「鈍行」という言葉の範疇には新快速のような、在来線の中では比較的高速で走れる列車も含まれるからだ。さすがに新幹線に比べればその進行は遅いといわざるを得ないのだけれど、特急相手ならば圧倒的にテンポがのろいという事もない。むしろ快速列車の欠点は、新幹線や各種特急に比してその運行区間が短いことだと言えよう。そしてその快速の欠点を克服した快速界の異端児が、ムーンライト系の列車である。ムーンライトは長いスパンで移動するし、その移動が夜間であるため、他の列車との待ち合わせで時間をロスすることもない(機関車の接続で長い停車時間が発生することはあるけれど)。だからこそ、18きっぷの旅においてはムーンライト車両が注目されるのだ。

 2006年春。18きっぷデビューからちょうど1周年にあたるこの時期は、四国を旅して回る事にした。四国方面に連絡しているムーンライトシリーズは、京都発で高知に向かうその名も「ムーンライト高知」と、同じく愛媛県松山市に向かう「ムーンライト松山」がある。二つの車両はどうやら、香川県のあたりで離合するらしく、本州を走っている間は道中を共にすることになるようだ。ともあれ、四国に向かうのならばそのいずれかを利用しない手もあるまい。そう思ってそれら車両の指定席券(ムーンライトに乗車するには通常乗車券の他に指定席券が必要になる。2006年春時点では一律510円也。九州行きの項参照)を抑えにかかったのが3月の半ば。ターゲットは3月31日に京都を発つムーンライト高知の券だった。

 しかし前回思いのほか簡単に指定券を入手できてしまったために油断が生じていたのか、発券窓口に問い合わせをした段階では、「時すでに遅し」の状態だった。なんと、3月31日便はすでに満席の状態だという。しからばと、4月1日に高知駅を出る上りの方はどのような予約状況かと聞いてみると、こちらには空きがあるという。そこで、とりあえずはこちらのきっぷを抑えることにした。当初の予定ではムーンライト高知で四国に入り、その後松山方面へ回ってから名古屋に戻ろうと考えていたのだけれど、そのプランを真逆にたどろうと考えたのである。端的に言えば、行きに使う予定だったムーンライトを、帰りに持ってこようと言う方針変換だった。

 ところが、この急の方針転換はあまり上手くは行かなかった。高知にせよ松山にせよ、名古屋からはあまりにも遠かったのだ。確かに1日がかりならば移動できないこともない。しかし、1日は本当に移動だけに終始する羽目になる。朝一番で名古屋を発って、夕方の六時を回ろうかと言う時間に目的地へ到着したとしても、観光などとてもおぼつかない。さらに調べてみると、意外なことに松山-高知間の移動も困難を極めそうで、こちらもほとんど一日を費やしてようやく2都市の間を行き来できるような有様である。もちろん、18きっぷ(鈍行)利用の話ではあるが。

 西村京太郎ばりの妙案を駆使して、何とかこの四国旅行を成功させることはできないだろうか。さすがに名古屋から松山もしくは高知への移動をワンステップで済ませることは早々にあきらめた。どこか、少しでも四国に近づいたどこかで夜をまたぐことで、松山までの日中移動時間を短縮。現地での観光時間をわずかでも捻出する。宿泊候補地は岡山、神戸など色々あるが、まあ大阪が最右翼になるだろう。大阪泊を前提に、時刻表サイトであれこれと策を練る。

 1日のスタート地点が大阪になれば、たとえゴール地点を松山に設定したとしても松山城を見て道後温泉本館に行ってみるぐらいの時間はあるだろう。その後、四国最大の都市らしい松山のサウナに一泊。……だめだ、大阪一泊を計画に盛り込んでしまうと四国での宿泊は不可能になる。今回の旅行には鹿児島の時ほどの時間的余裕はない。ならば仕事終わりで大阪に入り、翌日からの三連休で四国を回ることは出来ないか。18時過ぎに退社すれば、遅くとも22時には大阪に入れるはずである。そしてそのまま大阪で一泊し、翌日の朝一番で松山を目指す。これで松山入りが16時過ぎになり、城と温泉を回るくらいの時間は確保できる。道後温泉に浸かった後わざわざフツーのサウナで一夜を明かし、翌日はやっぱり朝一番早い列車で高知を目指し、高知観光。そして指定券を抑えたその夜のムーンライトで高知を発ち、翌早朝に京都入り。京都に戻れれば名古屋まではもう一息だ。

 とまあ、理屈の上ではこのプランは実現可能だった。もちろん、それなりの現実性もある。しかし、どうにもこうにもせわしない日程になりそうだ。さらに、サウナ泊まりとは言え外泊を重ねることになり、ちまちまと出費を強いられることになる。金欠気味の当今、これはあまりおもしろくない。結局、今回の旅行では松山をオミットすることになった。1日目で香川県内を回り、高松泊。翌日に高松から高知へ移動、そのまま高知を観光して、夜にはムーンライトで高知を出る。こういうプランで行くことになった。このチャンスを逃したことで、松山行きが遥かかなたに遠のいたような気がする。

 ちなみに当初の予定では、1日目に兵庫県の竹田城などを見て周り、夜のムーンライトに乗り込んで翌朝高知入り。四国各地の城などを見ながら松山まで移動し、松山一泊後、翌日は一日かけて名古屋まで戻ろうなどと考えていた。前述のとおり、四国転戦は少々厳しそうだが、こちらの方が時間を有効に使える、はるかにスマートなプランだった。「行きムーンライト」か「帰りムーンライト」かの差でずいぶんと変わってくるものである。






TOP いい日旅立ち・西へ








100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!