四国上陸

 全長936.8mの瀬戸大橋は、1988年に開通したものだ。当時の感覚では本州と四国を結ぶ連絡橋建設は大変なものだったのだけれど、あれから20年が経ち、同じような本四連絡橋は神戸淡路鳴門自動車道(明石海峡大橋)やしまなみ海道橋といった具合にその数を増やしている。私などは、ああいった橋は外観上に多少の違いはあっても全て吊り橋に分類されるものだと思っていたのだが、坂出市商工観光課によると瀬戸大橋は「吊り橋・斜張橋・トラス橋の3種類を併設」した橋なのだそうだ。ここで言う「吊り橋」は、ちょうど祖谷渓にかかるかずら橋のようなものを鋼鉄で造り巨大化させたものだろうが、「斜張橋・トラス橋」とはいったい何ぞや?一応調べてみたところ、斜張橋と言うのが普段我々が鋼鉄製の橋梁を指して言う「吊り橋」のことらしい。もう少し詳しく説明すると、巨大な橋桁によって橋梁部を吊るタイプの橋である。何にせよ吊ってるのだから吊り橋の一種には違いないのだが、専門分野で言う狭義の吊り橋は川の両端から橋を吊るものとして区別されているようだ。この事を踏まえると、瀬戸大橋はもろに斜張橋である。

 さて残るは「トラス橋」なのだが、これは三角形の構造を利用した橋のことで、大型河川などにかかる鉄道の鉄橋によく見られるタイプの橋だ。瀬戸大橋でも、JRの列車が走る鉄道線路部分がトラス構造になっている。

 雨後の筍のように、とは言わないが、本四連絡橋も最近では必要以上に数が増えたのではないかとの批判にさらされている。もっとも、鉄道線路は瀬戸大橋にしか存在せず、鉄道を使って四国に渡る場合には、瀬戸大橋を使う以外の選択肢は存在しないと言うことになる。

 色々な写真からでも瀬戸大橋の巨大さは分かるが、実際に通ってみると海面からの高さは相当なものである。船が下をくぐれるようにしているのだから当然のこととも言えるが、電車の車窓からだと文字通り眼下に紺碧の海面が広がっているのが見える。高所恐怖症の人だったらちょっと敬遠したくなるような光景だろう。おそらく、自動車移動ではここまで丸見えにはならない。そう考えるとこれも列車旅の醍醐味の一つなわけで、あまり褒められたマナーではないが、窓から見える風景を何枚も撮影。いかにも観光客丸出しの風情が少々恥ずかしいが旅の恥はかき捨てとも言う。

 本格的に厚顔無恥モードに入ろうとしていると、車内に電子音で作られたBGMが流れ始めた。その昔に小柳ルミ子が歌った「瀬戸の花嫁」だ。それに続いて車内アナウンスが始まる。と言ってもそれはよくある乗降案内のような事務的な連絡ではなく、瀬戸大橋に関する豆知識や、眼下の島々に関するちょっとした観光案内のようなものだった。こういうアナウンスは普段から行われているのだろうか。私はこの列車に18きっぷで乗っているのだから、もちろん特急車両ではなく鈍行である。さらに金曜日とは言え普通の、ウィークデーの昼下がり。ちょっと観光利用に直結しそうな要素は思い当たらない。と言うことは、このアナウンスは瀬戸大橋をわたる度、毎度毎度流れているのだろうか。生活の足としてこの路線を利用している人たちも、乗車の度にこのアナウンスを耳にしているのかもしれない。それともやっぱり18きっぷシーズンだから特別の措置なのだろうか。そういえば車内には18きっぷ観光客と思しき数人連れの中年女性グループもいる。

 瀬戸内海は、いわゆる「多島海」だ。本州四国の間は瀬戸大橋の全長から察するに9kmほど離れているのだろうが、その間には大小いくつもの島が浮かんでいる。瀬戸大橋は、点在するそれらの島を足場に9kmと言う長大な距離を結んでいるのだ。してみるとこの橋は、多島海ならではの構造物だと言うことになるわけだ。瀬戸大橋を支える一つ一つの島は本当に小さい。しかし島ごとに小さな集落と漁港を備えた漁村のような島もある。小学校らしき建物もある。別の島はほぼ丸ごと何かのプラントのようにもなっている。車内アナウンスは簡潔なもので、さすがにそれらの島一つ一つについて微に入り細を穿つような説明はしないのだけれど、知名度の高そうなスポットについては案内をしてくれた。いくつもの島の内の一つにある灯台について、「そこの燈台守をしていた人が映画『喜びも悲しみも幾年月』のモデルになった」と説明してくれた。私はこの映画を見ていないので説明を正しく理解していたか自信はないのだけれど、確かそんなことを言っていたような気がする。

 やがて列車は四国側に上陸。半日ほども移動に費やして、ようやく最初の観光ポイント・丸亀に到着した。まあ移動時間が長くなるのは18きっぷ旅の宿命である。宇多津を過ぎ丸亀の駅へと向かう車内からは、ここでの目的地となる丸亀城の高石垣が見えた。






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