うどんとマックとボーイズ

 琴平から高松へはJR線で移動する。当たり前のことのようだが二地点の間には琴平電鉄琴平線というのが存在しており、地図で見るだけだとこれを利用した方が移動距離は短くなりそうにも見えるが、この旅が18きっぷ旅である以上、JRで移動できる区間は当然JRで移動するのである。

 琴平周辺はかなり田舎なのだが、坂出や高松近辺では線路沿いもかなり開けている。見るともなしに窓の外を見ていると、讃岐うどんの店もちょこちょこと目に付く。聞けば香川県民のうどん消費量は日本一なのだと言う。どうやって算出した数字なのかは定かではないが、1年間に130玉とか180玉以上もうどんを食べると言うデータもあるから(資料によって誤差が大きいのはご愛嬌である)、文字通りの県民食と言ってよいだろう。ついうっかり「恐るべし、讃岐うどん」などと口走ってしまいそうになるが、「おそるべき讃岐うどん」というキャッチーな商品名のうどんまであるというから驚きだ。まさにうどん王国。

 ところがなぜ香川県がかくのごときうどん王国になったのかについては、ちょっとネットを調べた程度ではよく分からない。門外漢の私としては、「水を得にくい土地柄から米作よりも小麦の生産の方が盛んになり、その関係で製麺が盛んになったのだろうか」などと思ったりもした。あるいはこんぴら詣での客に供されたファーストフードの流れを汲むものなのだろうか。伊勢神宮に行くと「伊勢うどん」と呼ばれるうどんが食べられる。ウスターソースのように異様に黒い麺つゆとちょっと麩に近い食感の太い麺が特徴のうどんだ(ちなみに左写真がそう)。あれなら事前に大量にストックしておいて、客が来た時に手早く茹で上げるだけで済む。果たして真相やいかにと言ったところだが、難しい事は考えず、とりあえず今日の夕飯はうどんで決まりである。

 高松駅は一見するとどん詰まりのような場所にある駅だった。駅舎はかなり大きく、デザイナーズビルのようにしゃれた造りである。大きな窓を備えているおかげで開放的な構造が強く印象に残るが、駅ビルはそれほど大きくなく、食べ物屋や土産物屋の充実度はいまいちだ。まあ高松市は観光を中心に売り出す街という風情でもないから、これはこういうものなのかも知れぬ。

 高松到着はちょうど18時ごろの事だった。駅からも近い事だし、せっかくだから高松城にでも行ってみようかとも思ったが、このタイミングではさすがに閉園時間を過ぎている。とりあえず、うまそうなうどん屋を探しながらそぞろ歩いてみよう。ところが…。

 どういうわけか高松市街には讃岐うどんの店が存在しないのである。いや、まったくないと言う事はないのだろうけれど、私が歩いた限りではそれらしい店をほとんど見つけられなかった。延々歩いた挙句に琴電の河原町駅付近でようやく一軒のうどん屋を見つけたが、私がイメージしている讃岐うどんの店と違って、なんだかお高そうな雰囲気である。讃岐うどんと言うのは、まず小盛・普通盛・大盛の選択をした後トッピングを選んで蛇口からつゆを注いで(←ここがポイント)この世にたった一つのオリジナルうどんを創るスタイルではなかったのか?しかる後にそのオリジナルうどんの内容に合わせて料金を精算するのである。(後で知ったところによると、私がイメージしていたのは讃岐うどんの店の一つの形には違いないのだが大衆店のスタイルだったらしい。)

 清貧旅行を旨として18きっぷ旅を続けている以上、豪勢なうどんを食べるのはなんだか業腹である。もっと安いうどん屋はなさそうか、もう一度高松の街をうろついてみる事にした。こうなったら定番の吉野家でも良いや。そう思っていたのだけれど、高松市の中心部付近では、吉野家や松屋、餃子の王将と言った日ごろ旅先で愛用している見るからにチープな食べ物屋もほとんど見当たらないのだ。これには参った。大きなアーケード街があったのでそちらに入っても見たのだけれど、7時を少し過ぎたぐらいの時間にしてすでにほとんどの店がシャッターを下ろしている。何故かメイド喫茶があるのは見つけたのだが、ちょっと中に入る勇気がない。幸か不幸か営業時間外だったようで店が開いている気配はなかったが、メイド文化は高松のような一地方都市にまで浸透しているらしい。これにはちょっと驚いた。最終的にはこのアーケード外の一角で営業していたマックで夕食をとる事になった。地元の高校生がおやつとも夕食とも付かないハンバーガーをぱくついているが、基本的には客は少ない。侘しい。吉牛や王将に慣れた身でもこれは何故か悲しい。

 もう一つ困った事と言えば、今晩のねぐらにするつもりでいたサウナがどこにあるのかも見つけられなかった。ネットで調べてみると「ファーストイン」とか「ゴールデンサウナ」と言ったところが評判になっていたが、意外にもこのご時勢に自社ホームページを持っていないらしく、所在を示した地図がない(2006年7月現在ではGoogleマップで容易に検索できるが、当時はそのような便利なものはなかったのである)。「巨大アーケードの一角にある」とか「風俗店街の近くにある」とかいった漠然とした位置情報は事前に仕込んで置いたので、後は現地で探せば十分だろうと思っていたのだけれど、そうは問屋がおろさなかったのである。仕方がないので路傍の電話ボックスでタウンページを手繰り、住所を控えては適当な本屋で地図を立ち読みしてサウナの位置を検討する。涙ぐましい努力の末にようやくたどり着いたゴールデンサウナは、先ほど飯を食べたマックからそれほど遠くない雑居ビルの中にあった。18時に高松駅についてから2時間ほども歩いただろうか。こんぴらさんを戦い抜いた私の足も、高松市内の迷走で疲労しきってしまった。特に足首がひどく痛む。明日の行程が心配である。長距離を歩く予定はないのだけれど。

 さて、ゴールデンサウナであるが、設備的には並みのサウナである。浴場にはサウナをはじめ各種の湯船が取り揃えられているがどれも平均的なものばかりだ。それでもジェットバスに浸かって足首のマッサージをしているとずいぶん癒される。そう言えばここはカプセルホテルを併設しており、夜もゆっくり眠る事ができる。その点で総合的なコストパフォーマンスは良い方だっただろう。客層がちょっと…なのか、どこかで周囲もはばからず成人向け有線放送を見ている御仁がいたらしく、あの声が夜半近くまで聞こえてきたのには辟易したけれど。






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