ため息の橋

 高知駅までたどり着いたのは良いものの、その先が少々心もとない。高知市内の移動はレンタサイクルで行うつもりだったのだけれど、事前のネット検索ではレンタサイクルショップについて満足な情報を得られなかった。ホテルのサービスの一環として貸し出しを行っている事はわかったのだが、飛び込みで貸してもらえるかどうかは甚だ怪しい。そこでずいぶんアナクロな方法ながらタウンページの高知版でレンタサイクルの店を探してみたところ、高知市内にある一部の自転車屋が副業的に自転車の貸し出しを行っているらしい事を突き止める。一応その住所と、おおよその位置をメモしておいての高知到着となった。しかしやはり「餅は餅屋」ということもある。どうにか専門のレンタサイクルショップは見つけられないものか。そう思っていると、改札を出たあたりで「観光案内所」の表示を見かけた。ここで尋ねれば何か耳寄りな情報が聞けるかもしれない。

 2006年4月1日当時の高知駅は駅舎の拡張工事に着手したばかりといった雰囲気だったが、旧来の駅は思いのほか小ぶりなものだった。改札からまっすぐ歩いてその小さな駅のビルを出、左に曲がって少し進んだところに観光案内所はあった。早速そこでレンタサイクルの店がないかどうか聞いてみると、案内所で無料貸し出しを行っているらしい。それなら話が早いので、早速借りるための手続きを始める(なお、この文章を書いている2006年7月段階では高知駅レンタサイクルの情報はあっさりネットで見つけられる。高松のサウナの件といい、なんだか面白くない)。しかし、この観光案内所のおじさんのアナウンスがやけに圧迫的だった。行き先を聞かれたのでとりあえず「桂浜」と答えたところ、5時半までに返さなければならないこと、天気予報では雨が降るといっているがどんな事情があっても乗り捨ては出来ないこと、傷害保険は適用されないこと等々、当たり前といえば当たり前の事柄を、半ば脅すような口調で確認してくる。もしかすると土佐弁が高圧的に聞こえるだけなのだろうか。私はそれを聞きながら、必要書類の「乗り始め駅」の欄に「JR名古屋駅」と記入したが、この欄の書き方のルールがいまひとつ理解できず、後になって「事実と異なる虚偽の報告をした」と言って問題にされないかと、戦々恐々としていた。基本的にはJRの行っているサービスであるため、利用者には「相応」の資格が求められると言う事らしい。当日の始発駅は高松駅だが、この旅の始まりは名古屋駅(地下鉄ではなくあくまでJR名古屋駅)だし、多少の勘違いがあったとしても、まあ大目に見てくれるよね…。

 手続きを済ませ、厳しいお目付け役から解放されるような心境で高知市内へと漕ぎ出す。目的地である月の名所・桂浜は高知市街南の太平洋岸にある。地図で見たところ、40分ほど走れば行き着けそうな距離だ。観光案内所の人も「車で30分ほどだから、自転車なら1時間はかかる」というニュアンスのことを言っていた。シティサイクルよりも劣る普通のママチャリで土地勘のない街を行くことを考えれば、所要時間1時間はおよそ妥当なところだろう。おじさんが言っていたように、空は曇天模様である。高知県は年間日照時間が全国でももっとも長い反面、年間降水量も多いと言う。一見矛盾するようだが、つまり短時間に多くの雨が降る傾向があると言う事だ。いざとなれば道すがらのコンビニでビニール傘でも買うことになるのだろうか。

 さて最終的な目的地は桂浜なのだけれど、その前に一つ見ておきたいものがあった。その名も高い、「土佐の高知のはりまや橋」である。よさこい節では「坊さんかんざし買うを見た」と歌われている高知市内の名所である。どうやら高知駅から程近いところにあるようだ。ところがこのはりまや橋、旅行通の間の評価はあまり芳しくなく、一部では「日本三大がっかり名所」の一つにも数えられているという。ちなみにあとの二つは、札幌時計台、京都タワー、そして我が名古屋のテレビ塔などが入ってくるらしい。今回は縁がなかった道後温泉本館もなかなかがっかりできると言う。もっとも「三大」はまず語感ありきで選定された感もあり、事実上はりまや橋と時計台ががっかり界の両巨頭だと思われる。見せてもらおうか、土佐の高知のがっかりとやらを。

 ……なんか思ったよりも普通である。普通の街角に小さな朱塗りの木橋があり、その下にとってつけたような水場が造られている。どうも最近になって「がっかり名所」の汚名を返上するべく改修工事が行われたらしいが、「カド」がどれた事によって、かえって突き抜けたがっかり感さえもない、毒にも薬にもならない観光スポットになっている。それなりに由緒のあるスポットなのに、この「歴史を感じさせなさ」はどうだろう。狙っても出せない絶妙のアンバランスさ。これはがっかりである。一番はりまや橋っぽさを感じさせてくれたのは、すぐ近くで営業している菓鋪の看板商品らしい銘菓・「かんざし」の幟であった。

 気を取り直して、と言うかはりまや橋で受けるがっかりは予定の事だったのだけれど、先を急ぐ。高知市も中心部を外れると意外に細かなアップダウンが多い。そもそも高知市街そのものが北側の四国山地と、南部の丘陵地に挟まれた盆地のような土地に開けているらしい。桂浜は、高知平野に大きく入り込んでいる高知湾と外洋であるところの太平洋とを結ぶ点に位置しているのだから移動の途中で山道を走る事はないだろうと高をくくっていた。しかし比較的大きな幹線道路は高知湾沿いを走っていないらしく、「桂浜」の標示看板を頼りに先へ進もうとすると、海など見えない内陸部の移動を余儀なくされる。次第に「本当にこの道で良いのだろうか」と不安になってくる。やがて太平洋に到達。ここまで出れば、後はひたすら左(東)方向に走れば桂浜にたどり着くはずだ。

 最後の最後でやたらに長い坂道を登らされたが、どうにか桂浜に到着。さすが高知県内屈指の観光地だけあって、人出は結構なものである。

 






秘境祖谷渓探訪 TOP 土佐を駆ける








100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!