諏訪の人は柱が好き

 山梨県を後にし、塩尻方向へと戻る途中の上諏訪駅で下車して高島城の見物をする。電車がホームに止まりそうになったので席を立ち、出入口の前に立っていると、すでに動きが完全に止まっていると言うのに、なかなかドアが開かない。一体どうしたことかと思っていると、横合いにいたおじさんが、ドアの脇についていたボタンを押した。すると、いとも簡単にドアは開いたではないか。なんと、このあたりの電車はボタンを押さないとドアが開かない「半自動ドア」となっているのである。まったく知らずに恥をかいた。しかし、先ほど新府駅で降りた時には黙っていても勝手にドアが開いたのになあ。

 高島城そのものは、どこにでもあるようなお城といったところだろうか。公園の中に復元天守があって、その中は資料館になっている。それにしても諏訪市は独特の雰囲気がある街だ。御柱祭の関係で賑わっている様子しか知らなかったため、あまり人気がなく城と駅の往復の間にもあまり人に出会わうことがないようないつもの休日の昼下がりはまったく知らなかった。最近ではすっかり名古屋暮らしに慣れてしまっているため、地方都市の実態がよくわからない。

 諏訪と言うとまず「犬神家の一族」を思い出す。角川映画では舞台が那須に設定されていたけれど、もともと犬神佐兵衛翁は諏訪の精密機械産業で財産をなした人物となっていたはずだ。今でも時計などの生産は盛んなはずなのだが、あまりそういう雰囲気は感じられなかった。むしろ興味深かったのが、普通の街中に唐突に立てられた、御柱のミニチュア版のような4本の柱である。よく見ると、道祖神らしきものを囲むような形になっており、なかなかに面白い。これはもともとそういう風習があったものなのだろうか。観光用に最近になって始められた企画というオチがつかないことを祈りたい。聞きかじり程度の記憶なのであまり確かな話ではないのだけれど、諏訪にはこの地方の産土神として知られる諏訪大明神ことタケミナカタ神以前に、ミシャクジ政体と呼ばれる小規模の国家体制が存在していたのだと言う。まつろわぬ民の象徴として鹿島大明神・タケミカヅチに諏訪を追われたタケミナカタにしてからが、ミシャクジ神と呼ばれる土着の民を追った後で諏訪に入っているらしい。こういう諏訪地方独特の風習が、ミシャクジの流れを汲む物だったら面白いのになあ。もう一つ興味をひかれるものと言えば、「有害自動販売機の設置に反対する地域です」と書かれた看板があった。「有害自動販売機」とは、エロDVDの販売機などのことなのだろうか。それとも、対面販売という商売の形態そのものを否定するような自動販売機全てが有害と言うことなのだろうか。そのあたりのことはよく分からん。

 なまじっか上諏訪駅で降りてしまったばっかりに、次に塩尻駅方面に向かう下り列車を待たなければならなくなる。途中、狩人が歌ったのと同系列の特急・あずさが目の前を通り過ぎていく。これまで関西方面に出かけていた時には特急と普通列車の間に横たわる厳然とした階級差別を感じることはなかったけれど(なぜなら東海道線は基本的に特急の走る線路ではない。東海道線の特急は、根本的に別のレールを走る新幹線だからである)、長野地方の線路の主役はあくまで特急であり、それ以外の列車は添え物でしかない。快速などと言う、特急と普通の合いの子のような中途半端な車両は存在しないのだろうか。その上諏訪駅だが、最近改札の自動化を達成したらしく、構内放送では盛んに自動改札の使用方法を利用客に案内している。どうしても田舎の駅という印象を拭えはしないが、中央線の駅としてはそこそこ大きい部類に入る駅なのだろう。一駅一名物運動とやらで、この駅には足湯も用意されている。基本的には無料で利用できるのだが、タオルは自分で用意しなければならない。なければ結局駅員室あたりで買うことになる。最近何かと人気の足湯。ここ上諏訪駅の足湯も、旅番組などでは時折取り上げられる。私も一応遠巻きに見るだけ見たものの、実際に利用するには至らなかった。重装備ダッフルコートですでにかなり暑い思いをしているだけに、さらにお湯につかろうという気にはならなかった。足湯の様子を眺めているうちに松本行きの下り普通列車がホームに到着した。

 再度の塩尻駅。今度も電車が完全に停車するより早く席を立ち、ドアの前で待つ。列車が完全に止まったのを見計らって、今度こそはと開扉ボタンを探すのだが…ない。見落としかと思ってもう一度、ドア周辺を嘗め回すように探してみるのだが見つからない。「どういうことだ?」とあせり始めた時、私の一歩後でドアが開くのを待っていたおばさんが、「何やってんだ、このスットコドッコイ」とでも言いたげに、手でドアをこじ開けた。一瞬、「なんと言う怪力か」と思ってしまったが、冷静に考えてみれば、この列車のドアは半自動ドアどころか完全手動開閉式だったのである。

 塩尻駅では、またしても1時間ほどの待ち時間があった。駅の近くには、国道20号線・153号線の終点(19号線との交点)が存在している。空いた時間にその高出交差点に向かい、道を行き交う車の群を眺めていた。やはり私は、鉄道マニアではなく国道マニアとしてしかやっていけないような気がする。






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