大阪下見旅行

 2011年3月11日の夜。私は博多駅を目指す夜行バスの中にいた。地震があったのは15時少し前だったから、もちろんそのことは知っていたのだけれど、帰宅後にあわただしく旅装を整え、そのまま夕食かたがた家を出た形だったため、その被害の本当の悲惨さを知るには、翌朝を待つ必要があった。駅売りの新聞を買い、九州の海岸部を走る在来線が、津波被害を警戒して軒並み運休になっているのを知るに至り、昨日の地震が生半のものではないと知ることになる。結局、この日はじめて全線開通を果たした九州新幹線を使い、所期の目的地であった鹿児島にたどり着くことが出来たが、本来なら賑々しく挙行されるはずであった新幹線のオープニングイベントも、大々的なものは軒並み中止され、やがて長らく続くことになる自粛ムードの端緒を見せていた。

 思えば、地変に祟られる旅行ではあった。そもそも最初の段階では、福岡入りした後、大分、宮崎と回って鹿児島入り、帰りは新幹線で名古屋までと言うプランを描いていたのだ。しかし、地震報道で一気にかき消される形にはなったが、宮崎県と鹿児島県の県境付近にある新燃岳が活発な活動を見せ、周辺地域に見過ごしがたい被害を及ぼしていたため、心苦しいが宮崎をパスし、鹿児島本線や肥薩おれんじ鉄道を乗り継いで鹿児島へ入ろうと考えていたのである。

 明くる2012年春。昨年には果たせなかった、宮崎攻城旅行に着手することにした。宮崎には、伊東氏系の城や耳川の戦いにちなむ城で、興味を抱きながら未訪となっている城が多い。これを一気に落としていく。ただ、宮崎というのは少々厄介である。まず、名古屋から宮崎へ、ダイレクトにアクセスするルートと言うのが思い当たらない。宮崎直通の夜行バスもないし、大分・別府までなら存在するバスルートを使い、そこから鉄道で移動しようにも、なかなか不便である。もちろん、熊本・鹿児島辺りまで新幹線で移動し、そこから在来線と言う手もあるが、いずれにせよ迂遠である。空路はあるのかもしれないが、どうも探してみる気がしない。面白味がないし、何より落ちそうだ。

 そんな時、大阪と宮崎を目指すフェリー航路の存在を知った。「さんふらわぁ」の一航路でもないかと探っていたら、宮崎カーフェリーというのがそれに近いことをやっている。長時間の船旅と言うのはしたことがない。伊良湖と師崎を行き来したり、せいぜい伊勢湾口を横切って伊良湖と鳥羽を往復する程度である。18きっぷ旅というくくりの中では、宮島航路を使ったり、鹿児島市街から桜島に渡るのにフェリーを使ったことがあるくらいだが、これらに至っては10分か20分あまりの船旅だ。

 船は沈む恐れもあるが、それより何より船酔いが心配である。ちょっとためらう気持ちはあったものの、ホームページでフェリーの施設・サービスを見ていると、色々目新しいものがあり、面白そうではある。気がかりが無いではなかったが、この春の九州行きには、フェリーを採用することにした。

 件のフェリーは、大阪港(大阪南港)のかもめフェリーターミナルというところから出ているらしい。地図で見ると、ちょっと大阪の街中から距離のあるところである。近くまで鉄道が通っていないわけでもなさそうだが、最寄駅からの距離もそれなりにありそうだ。万が一、当日フェリー乗り場を目指して迷子にならないとも限らない。

 そこで、2012年春の18きっぷ旅の初弾は、大阪かもめフェリーターミナル下見旅行にすることにした。もちろん、それだけだといかにも寂しいから、兵庫県の感状山城を取りがてらの大阪行きにし、ついでに京都大学で折田先生像も拝んでくることにした。考えようによっては豪勢な下見ではあるが、この経験は、後になって確かに生きた。

 当初、かもめフェリーターミナルの最寄り駅と目していたのは、南港東駅だった。大阪の玄関口となる大阪駅からだと、かなり距離がある。地下鉄西梅田駅で四つ橋線に乗り換え、終点である住之江公園駅まで移動した後、そこで新交通システム路線であるニュートラムに乗り換える必要がある。

 大阪駅から西梅田駅までの移動でもてこずったし、地下鉄・ニュートラムに揺られている時間も長かったが、漸う南港東駅にたどり着き、そこから港に向かって歩き出してからがまた、想像以上に遠いではないか。20分程度もあればフェリーターミナルに行き着けるかと思っていたら、実際には40分〜50分ほどもかかってしまった。迷っていた時間が無いわけではないのだが、単純な移動距離もかなり長い。初見で速やかにたどり着くことは難しいだろう。

 そういう意味では下見しに行った甲斐があったと言うものだが、本番にあたっては市営バスを利用することにした。玉出、北加賀屋、住之江公園あたりの駅からフェリーターミナルまで行くバスが出ており、普通の大阪人はこちらを使っているようだ。

 なお、フェリーターミナルそのものには晴れがましさと言ったものが無く、さすらいの旅の出発地となるにはかえって好都合ですらある佇まいだった。






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