真夏の盆地

 高梁市は、東西に伸びる中国山地のちょうど中ほどにある。岡山の平野部からは一山二山ほど越えた所に位置する谷あいの街だ。中心となる市街地は、瀬戸内海に注ぐ高梁川の左岸に発達しており、備中高梁駅もその一角に営まれている。中国山地は、山塊は広く連なっているものの、長野や山梨の峰々ほどの急峻さはない。また、千メートル級の山もごく一部にしか存在しない。要は、低くなだらかなのだ。高梁市も、山間の街とは言え高原のような快適さはない。この夏一番と言われた酷暑日だったこともあってか、気温は殺人的に高く、湿度の高さも耐え難いほどのレベルだった。

 冷房の聞いた車内から外の様子を見る限りでは、田舎町のビジュアルに騙されて、気温は高くとも不快指数はさほどではなさそうに感じられたのだが、ホームに降り立つと、夏いきれというのか、喉と言わず肺腑と言わず、体の内側から蒸されるような、強烈な熱気を感じた。こんな中で山上の城郭を目指さなければならないのか。そのまま回れ右をしたくもなるが、一方でやはり天下に聞こえる名城をこの目で見てみたいと言う気持ちもある。

 とにかく時間がない。事前調べによると、国道180号線沿いにレンタサイクルの店があると言う。また、松山城の麓の駐車場まではわりと短い間隔でシャトルバスも出ているらしい。そのどちらかを使えば、山麓までは短時間で移動出来るが、その後は自分の足で移動しなければならない。1時間30分で往復できるだろうか。前途に不安を感じつつも、とにかく行動を開始しなければならない。

 ところが、その時間のない折に限って、早速迷子になってしまった。とにかく自転車かバスを目指して歩き始めたのだけれど、しばらく歩いてもそれらしいものを見つけられない。しかも、目指すべき城の位置もいまいち特定しきれない。やむを得ず、きびすを返す。今回、予算には比較的余裕がある。駅前で客待ちをしていた何台かのタクシーを捕まえ、城を目指す作戦に方針転換した。どれを選んでも違いはなさそうだったので、たまたま目があったおじさんのタクシーで山上を目指してもらうことになった。タクシーなら、松山城本丸まで20分ほどのところにあるふいご峠駐車場まで登れるらしい。

 車中に一対一の状態なので、おじさんはいろいろ話しかけてくれる。「ここの家は映画『バッテリー』の撮影に使われた」とかいうような話や、武家屋敷、松連寺、山中鹿之助の墓といった高梁の観光名所の見所、さらに松山城は自身で壊れたのを修復したために国宝から重文に格下げになったと言うような話など、いかにも観光客相手はなれているといった感じである。横暴な運転の目立つ名古屋のタクシーに比べれば、随分と印象が良い。

 駅から駐車場までは10分あまりの道行きだったような気がする。駐車場自体はさほど広くはないが、屋根付きの休憩所があり、自動販売機や公衆電話もあって、あるいはここでバスやタクシーを待つことが出来るのかもしれない。おじさんの話によれば、駐車場から天守閣まで、舗装された道と遊歩道という二つのルートがあるそうだが、どちらを選んでも徒歩20分ほどになるとのこと。舗装道の歩き易そうではあったが、直射日光が厳しかったので木陰の出来ている遊歩道の方を選んだ。多少なりとも早く着けるかと期待していたが、やはりおじさんの読みは正確で、駐車場から天守閣までには20分ほどの時間を要した。






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