宍道湖の残照

 松江駅に着いたのは、灯ともしごろのことだった。駅を出てみると、往来はすっかり薄暗くなっている。土産物の購入、夕飯、宿探しとしなければならないことはいろいろあったが、まずは宍道湖のほとりに向かうことにする。湖畔にある島根県立美術館の庭先に、「宍道湖うさぎ」という幸運を呼ぶうさぎの像がいるのだそうだ。いわゆる都市伝説の類のようだが、旅行ガイドにも取り上げられる、ちょっとしたトピックになっているらしい。さらに美術館のミュージアムショップでは、この「宍道湖うさぎ」(もしくはそのモデルになったであろう因幡の白ウサギ)にちなんだうさぎのメノウ細工を売っていると言う。これなどお土産に良いのではないかとも思っていたが、今から美術館方面を目指して閉館時間に間に合うかどうかは難しいところだ。

 駅から宍道湖までは事実上の一本道なのだが、初めての街なので慎重に道を確認していたら、それ相応の時間がかかってしまった。宍道湖では、湖の向こうの西の空に沈む夕日が美しいと言われているが、湖畔にたどり着いた頃には太陽はすでに地平の彼方に沈んでおり、西の空が残光でわずかに赤く染まっているだけだった。湖の北岸は観光ホテルが立ち並ぶ地区になっているらしく、湖水に浮かぶように見える夜景もまた美しい。もちろん、美術館も閉館時間を迎えている。もっとも、美術館に併設のレストランはまだまだ営業中らしい。松江というと山陰の地味な都市という頭があったが、なかなか都会的に洗練された雰囲気のレストランだ。うさぎは、一応見つけられたが暗がりの中でのことだったため、もう一つ印象に残らない。

 この場所には、明朝松江城に向う途中もう一度立ち寄ることにして、夕食と宿を探すことにした。とは言うものの、ここに来るまで安上がりに済みそうなファストフード店も含め、食べ物屋らしい食べ物屋が見当たらなかった。コンビニの類も見つからない。国道9号線の方まで移動すれば、いつも世話になっている吉野家があるようだが、ちと距離がある。駅には蕎麦屋などがあったし、ホテルも結局は駅前で探す事になりそうだ。そういうわけで、再び20分ほど歩いて駅まで移動。

 美術館の事もそうだったが、松江の中心部には意外にも寂れた感じがない。ただし、大都市部にありがちな猥雑さもあまり無いため、貧乏旅行者が飯を掻っ込むのに適した定食屋やファストフード店のような最低ランクの店もあまり目に付かない。さっさと夕食をとるには、適当なレベルの店で手を打ったほうが賢明かと思われた。駅の中にあった土産物屋で勾玉購入。伝統的なメノウやヒスイではなくローズクオーツで出来た勾玉だ。ついでにそこで見つけた蕎麦屋「奥出雲大橋」へ入ることにした。夕食時ということもあってか、店内はなかなか客の入りが良い。気楽に入ったものの、座る席がない。幸い入口近くにいたご婦人のご好意により、相席と言う形になった。注文は、出雲の名物を取り揃えたセット料理をセレクト。出雲そばやうなぎ、シジミ汁に天麩羅、茶碗蒸しなど、バラエティに富んだ料理がそろっており、一品一品の量はさほどでもないが全体のボリュームはなかなかだ。ちなみにうなぎとシジミは宍道湖七珍の中に数えられる魚介である。価格設定は全般にリーズナブルで良心的だといえる。流行っているのもまあうなずける。もっとも、これだけ流行っていても閉店時間は比較的早いらしく、19時30分を過ぎる頃には閉店の準備を始めていた。基本的には、ファミリーや一人客が相手で、高級店の部類に入る店ではないのだろう。

 宿は「大橋」の目と鼻の先、松江駅南口の松江プラザホテルに決まった。何より、低料金なのを買った。その中でも最も安くなる部屋をオーダーしたところ、前回の新潟のホテル並みの小さな部屋に通された。やはりビジネスホテル最低ランクの部屋と言うのはこういうものである。一泊素泊まりには、これで十分だ。






八雲立つ TOP 神国の首都








100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!