赤穂にも行こう

 ひとまず鳥取駅の構内で、善後策を講じることにする。今まで気付かなかったのが不覚なのだが、事前に帰路として選定した智頭急行は、JRの路線ではなく、第三セクターの鉄道なのであった。つまり、青春18きっぷで乗車することは出来ない。JRの特急「スーパーはくと」や「スーパーいなば」が乗り入れている関係で、JR智頭線を走る急行列車なのだと思い込んでいたのだった。走っている場所が場所なので列車本数は多くなく、朝一番の列車を逃してしまうと、このルートに固執する意味は全く無くなる。いや、仮に予定通りに行っていたとしてもどの道数千円程度の追加出費は免れ得なかったと思われる。ならば、松江からの引き上げに特急を使ったとしてもまあ良いかという気になってくる。この期におよんで普通列車のみでの移動に固執すると、山陽道に出るまでにかなりのロスが生じる。導き出された結論は、行きと同じ「スーパーやくも」で備中高梁まで戻るというものだった。先に触れたとおり、備中高梁-岡山間は本数もそれなりに多く、移動の不都合も少ない。岡山まで戻れば、岡山-姫路間に多少のストレスは感じるものの、名古屋までの期間は速やかに進む。

 こうして車上の人となること3時間弱。11時前には岡山に到着することが出来た。速やかな移動である。速やか過ぎて、名古屋への戻りが必要以上に早くなってしまいそうだ。概算すると、16時ごろには名古屋駅につけそうだが、もう少し遊んでいっても良い気がする。そこで、山陽道をまっすぐ東に向うのはやめて赤穂線で播州赤穂を経由、赤穂城を見てから名古屋を目指すことにした。18きっぷ旅を始めてから、岡山・兵庫周辺には何かと来る機会が増えたのだけれど、赤穂城はそのたび気にしつつも未訪であった。ここらでちょっと長らくの宿題を片付けておこうかという気になった。

 赤穂市は瀬戸内海に面する兵庫県最西の街だ。西日本を東西に走る山陽本線は赤穂よりも北の内陸部を走るため、これまで九州、四国、広島に岡山と幾度か近くを通ることはあっても、赤穂の街そのものに立ち寄ったことはなかった。赤穂へは、岡山と相生を結ぶ赤穂線で移動する。岡山-相生間は、往路で在来線移動を避けた魔の区間である。2両編成程度の小さな列車で移動するよりないが、赤穂線を走る車両も似たようなものである。もっとも、こちらの方はいくらか新しい車両が配備されているようでもある。

 岡山駅から播州赤穂駅までは50km強の距離がある。赤穂線普通列車は、ここを一時間ちょっとかけて移動する。たどり着いた赤穂の駅には、某チャリティ番組の募金ボランティアが張り込んでいた。駅とは言え、それほど人通りもなさそうなこの場所だが、赤穂市内には他に募金を募るに適した場所がないのかもしれない。駅前のロータリーには、歴史的に有名な例の四十七人のパネルが佇んでいたが、おそらく彼らの数の方がこの駅にいる生身の人間よりも多いと思われる。あまりにも暑さゆえに、人通りが途絶えてしまっているような感さえある。

 赤穂城は駅から南に1kmほどのところにある。歩いて15分ほどの距離だ。いろいろ見物しながら往復すれば1時間ほどになるが、この強烈な暑さの中で小一時間も外を出歩くのは命の危険すら感じる。思考能力も減退し、せっかく時間を割いてやってきたのに、さっさと引き上げたい気分がふつふつとこみ上げてくる。それでもとにかく城を目指すと、普通の街路の突き当たりのようなところに、城の堀と復元された櫓、そして城門が姿を現した。何はともあれ、これで赤穂探訪も先が見えたかと思いきやこれが間違いで、城門をくぐり、石垣によって作られた枡形を行き過ぎると、再び普通の街区のようなところに出てしまった。周りにあるのは空き地のような土地ばかりで、普通の街中という雰囲気でもないが、とても城の中には見えない。資料によれば一応赤穂場内であるらしいその場所には、大石内蔵助の屋敷跡があった。忠臣蔵ファンなら言うにおよばず、普通の観光客でもとりあえずは立ち寄るであろう場所だが、私は忠臣蔵にあまり興味がないし、あまりにも暑いのでとにかく城らしい城を見ることを優先したかった。赤穂城にはまだ先がある。どうやらここからさらに少し進んだところが赤穂城の本丸だという。確かに目を先に転じると、白い城壁と、二回目の城門がある。その向こうが本丸なのだろう。気を取り直して進んでみたが、期待は再度裏切られた。門の向こうにあったのは、本丸とは言うもののただの芝生広場といった風情のものであった。酷暑の中、ここまで頑張ってきた私の心は、ここでついに折れた。

 今度の松江行きは、途中まではかなり充実していたはずなのだが、最後でグダグダになってしまった。何となくしまらない結末に、はじめのうちこそ悶々としていたが、やがてそれすらも考えられないほどに疲れきり、相生駅から先、滋賀県の野洲を目指す新快速電車に乗り込むと、長時間乗りっ放しで良いと言う気安さもあり、やがて泥のような眠りに落ちていった。






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