バスが山形駅前に着いたのは、午前5時を少し回ったタイミングのことだ。べらぼうに早朝という事もなく、実際に始発列車は漸う動き出そうかと言う時間帯だが、これから秋田を目指す私にとっては、この時間からの乗車には余り意味がない。乗り継ぎの関係があるため、山形駅発が一番早い列車に乗っても、結局道中のどこかで長い待ち時間が発生する。おそらくは新庄辺りがそのポイントになるだろうが、新庄駅はたぶん、小さな地方駅である、それならばと、7時過ぎまで、県庁所在地の玄関口である山形駅で待つことにした。とは言え、山形駅周辺には、この時間帯から営業している飲食店やカフェもほとんどない。辛うじて松屋を一軒だけ見つけられたが、雰囲気の良くない地元の若者が、入口付近にたむろしていたため、結局は駅の待合室に引き返した。山形と言えば、以前新潟側からアプローチして仙台に抜けようと企てた時にも、乗り継ぎで泣かされたものだ。
今夏初めて、18きっぷに入鋏し、奥羽本線に乗り込む。旅らしい旅の始まりのはずなのだが、すでに乗車経験のある区間なので、さほどの高揚感もなく、気が付けば車中の大半、すなはち山形県域のほとんどを夢うつつで過ごしてしまった。ようやく目覚めた時には、第一目的地の直前と言う体たらく。
そんな調子で最初に立ち寄ったのが、秋田県横手市だ。近年ではB級グルメとしてもてはやされる、横手焼きそばでも知られる横手市だが、この街にも城がある。その名もズバリの横手城である。全国の、天守閣のある城を訪ねると、しばしば日本各地の天守閣を備える城の写真が飾られていることがあり、そうした中でも横手城天守閣は、比較的良く見かけるものだったため、それに興味を引かれて出かけたものだ。
横手駅は、さほど大きくはないが、改札が無人ではないので、この地域では中核的な位置付けの駅なのだろう。街中には、大きなビルはほとんど見当たらない。市役所がもっとも立派だった程度だが、そこそこ広い道も通っており、典型的地方都市の横顔を見せている。そんな田舎町を30分ほどかけて歩いた先にある城山公園が、横手城跡だ。30分で歩いた、と言うより電車の都合で30分で歩かざるを得なかったため、かなりのハイペースとなった。そのため、本日最初の訪問先でありながら、すでに汗だくだ。
高台にある以外は、ほとんど普通の公園だが、その中で目立つものと言えば、やっぱりくだんの天守閣である。ところが、現在あるのは復元天守ではなく、模擬天守なのだった。何か見所はないかと園内を一通り流した後、特に出色の見所も見つけられないまま、列車の時間が迫っていることもあって、そそくさと公園を退散した。なお、天守閣は資料館となっているらしいが、中には入っていない。展示内容は、横手市の歴史に関するものが主だと思われる。
駅に戻ると、ほどなく秋田行きの電車がやってきた。酷暑と言うほど暑くもないし、湿度も低く不快な感じもしないのだが、それでも涼を求めて車内に入ると、そこそこの乗客がいる。田舎の鉄道と言うと、大抵は座席がボックスシートになっているものの様な気がするのだが、この列車はそうではない。対面式の、通勤仕様の座席配置である。それがそこそこの乗車率で埋められているのは、意外な気もする。私などは、どうも田舎＝過疎地という頭があるのだが、このあたりは、決して都会ではないながら、人が少ないわけではなく、それなりに活気がある地方らしい。列車の窓から眺める景色も、山陰や四国の辺境に比べれば、幾分か賑やかな印象である。
そんな発見をしながら、続いて訪ねたのが、県都秋田市にある久保田城である。当地を訪ねる直前まで、「秋田城」と呼んでいたのだが、秋田市周辺には秋田城と呼ばれる別の古代城郭が存在するらしく、普通は秋田駅近くの市街地にあった近世城郭の方を久保田城と呼んで区別するらしい。
実は秋田訪問のその日は、まさに天下に名高い竿灯祭りの期間中で、街中ではお祭ムードが高まりつつあった。そんな秋田の街を横目に見つつ、駅からもそれほど距離のない久保田城跡千秋公園へ。それなりの規模がある城だったこともあり、まず水堀に囲われており、復元建築だったりもするが、門や櫓が存在している。お城としてはまずまずとっつきやすい部類のものだと言えよう。
ところで、秋田といえば竿灯と並んでノゾミールだと思うのだが、現実の秋田市は、別段ノゾミール押しと言うこともなく、いわんやノゾミールと出会うようなこともなかった。
駅では、竿灯祭りにあわせてか、秋田小物産展のような、特設売店が開店していた。そこで、がんばろう東北と言うことで、お土産にへぎそばを買ったのだが、よく考えてみればへぎそばは新潟の特産ではなかったか。どうせならきりたんぽを買うべきであったと後悔しても、後の祭りである。
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