投げやり堂

 JRの特急で智頭急行線を通り抜けるため、一旦上郡駅で下車。とりあえず鳥取までの乗車券と特急乗車券を手に入れなければならない。ところが上郡駅は、智頭急行線とJRの接続駅であるにもかかわらず規模が小さく、切符を買うための窓口は一つしかなく、運悪く窓口担当の駅員は電話応対に追われて客あしらいを出来ない状態になっていた。私の前には女性客が一人待っていた。特急への乗継まで、時間的には余裕が無い感じだったので多少あせる気持ちもあったのだが、そのうち電話も終わるだろうと思っていた。ところが、この電話がなかなか終わらない。どうせ地元の人間しか利用しないとたかをくくっているのか、早めに終わらせようとしている雰囲気も感じられない。

 そんな事をしているうちに、「はくと」が近づいてくる。このままでは、1時間にそう何本もあるわけではない列車に乗り遅れてしまう。途方に暮れていると、前の女性は用を足さないうちにホームの方へと走り去ってしまった。ええい、ままよ。彼女と同じようにしていればどうにか道も開けるだろう。開き直って自分もホームに駆け込むと、直後に「はくと」が到着した。おっかなびっくり列車に乗り込むと、「乗り越しの都合できっぷをお求めでないお客様は、車掌にお申し付けください」と言っている。言われたとおりにすればとりあえずきっぷは間に合いそうである。いくらか遠慮があったのと、車内に空席がなかったのとでデッキに佇むこと十数分、ようやくきっぷを入手できた。上郡駅を出てからかなり時間が経っているのでキセルを疑われないかと内心ひやひやしたが、どうやらそういうこともなかった。とは言え、結局座る場所がない状況に変わりはなく、相変わらずデッキに立ち尽くしたまま、北にある鳥取駅を目指す。いやはや、地図を開く事もできず、窓からの眺めはほとんど期待できずで、今自分がどの辺りにいるのかさえもよく分からない。瀬戸内海側の上郡から日本海に面した鳥取まで1時間、狭い通路で見ず知らずのおじさんと鼻先をつき合わせながら過ごした。

 かくて到着した鳥取駅。地方駅としては割合大きな部類に入る。今回の目的地には鳥取城や砂丘も含まれているのだが、とりあえず今はこの駅で降りることはない。ここから先は山陰本線に乗り換えて西を目指す。特急を降りたので、再び「鉄道の日」きっぷで移動が可能になる。

 この日最初に向ったのが三徳山三佛寺の奥の院、いわゆる投入堂である。最近の、猫も杓子もの世界遺産登録ブームに乗ったものか、投入堂も登録に名乗りを上げていると言うことだが、半分売名のような立候補地群に比べれば、圧倒的に登録が近い物件だろう。取って付けたような富士山とか、山形の少々小振りな環状列石に比べれば、建造物としての希少性が見た目にも分り易い物件である。まあ、世界遺産は観光名所リストではないので、分かり易さ(あるいは俗っぽさ)など登録のための絶対要件ではないのだけれど。

 投入堂の最寄り駅は倉吉駅である。鳥取県でも西部に位置する駅で島根県にも近く、ついこの間通ったばかりの米子はもう目と鼻の先という場所だ(「出雲で発見!尼子っち」参照)。反面で、鳥取市とはそれぞれ鳥取県内において東端・西端のような位置関係になるため、これを鈍行に揺られて行くと1時間近い道のりとなる。倉吉駅自体は決して大きな駅ではないのだが、地域の拠点駅となっているらしく、特急などでも止まりはするようである。とりあえず帰りの電車が捕まえられなくて困る恐れは少なそうだ。これはうれしい誤算か。

 しかし、悲しい誤算もあった。実を言うと、いかに倉吉が最寄り駅になるとは言え、ここから投入れ堂に向うバスはほとんど本数がない。時刻表によると、今から2時間近くも待たなければそのバスを捕まえることが出来なさそうと来ている。といってタクシーを利用するにはかなりの距離があり、必然的に高くつきそうだ。ポケットマネーだけで足りるかどうかが心配になるほどの距離である。駅周辺には何もなく、ここで時間を潰しながらバスを待つのは難しい。よしんば次のバスまで待てたとして、時刻的にはもはや夕方近くの話となる。時間の使い方としては非常に無駄が多い。結局この投入堂行きは、倉吉の駅を見ただけで断念という、企画きっぷ旅では近年まれに見る大失態に終わった。駅で30分ほど待ち、今度は鳥取方面行きの列車に乗る。もしもこれが、鳥取で用事を片付けてから倉吉に来る形にしていたら、違う結末を迎えていたのだろうか。いや、考えるのは止そう。






鉄道の日記念きっぷ TOP この砂、この肌触りこそ鳥取よ








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