■DATA
 経路
  名古屋-高山(往復)
 通常時運賃総額:6520円


 飛騨路も夜明け前

 はじめての18きっぷ旅・締めくくりの幕は、夜が明けるよりも早く上がった。全5回の最終回は、思い悩んだ挙句に高山行きにした。

 何も好き好んで未明の出立を選んだわけではなく、この計画を実行に移すまでにはかなりの葛藤があったのである。何をそれほど懊悩する必要があったのかを説明するため、まずはこのときの日程のおさらいをしておこう。高山に向かうには、岐阜から高山本線を北上していくことになるのだが、特急のワイドビューを除けば、岐阜から高山まで直通の列車はほとんど無い。では乗り継ぎでならどうかといえば、これも線路上を行き交う列車本数そのものが少ないために困難を極める。結局は岐阜発高山行きの列車に乗る以外に現実的な選択肢は存在しないと言って良いだろう。その一日にわずかの本数しかない岐阜発高山行きは、6:57に1本出た後には数時間の間ぱったりと途絶えてしまう。高山観光のためには、是が非でもこの6:57に乗らなければならない。

 問題はその先だ。本当の苦難はそこから始まる。6:57に岐阜駅にいるためには、名古屋駅を5:52に出なければならない。とんでもない早朝である。この電車で岐阜駅に着くと40分ほども乗継までの空白時間が出来るためあまり気乗りはしない。しかし、高山に行くためにはこれが一者択一なのである。これより早い時間の電車としては、夜行快速ムーンライトシリーズのムーンライトながらが走っているが、高山行きに乗るには5:52より遅らせることは出来ない。名古屋を出て高山行きの普通列車に乗るためには、中央線の多治見駅から太多線で美濃太田駅に移動し、そこで高山線を捕まえるという手段もあるので、一応そのルートでのアクセスが可能なのかどうかを確認してみたが、やはりこれは机上の空論に過ぎず、名古屋駅早朝立ちを回避するための手段にはなりえなかった。そして、午前6時前ともなれば地下鉄さえも動いていないので、名古屋駅までの移動には自転車を使わざるを得なくなる。それ自体はいつものことなのだけれど、自転車の場合だと自宅から駅までの移動に1時間程を要するため、5時前には家を出なければならない。余裕を持っての移動を心がけるには、4時半には家を出たほうが良い。すると起床は3時台。もう無茶苦茶である。しかし、18きっぷで高山に行くためには、その無茶を通さなければならないのだ。もちろん、名古屋発の特急ならば勝手に岐阜を経由して高山本線に入って高山に向かってくれるのだけれど。

 かくして私は、いまだ眠り続ける名古屋の街の夜明け前を駆ける羽目になった。夜明け前が一番暗いとはよく言ったものである。いわゆる深夜の時間帯のように酔客が街にあふれるわけでもなく、人の営みがほとんど感じられない分だけ、今が夜のもっとも深い時間帯のように感じる。名古屋駅につく頃になってようやく、東の空がそろそろ白み始めていた。いつも使っている駐輪場は6時にならないと開かないため、駐輪を認められた近くの路上に自転車を停めざるを得ない。自転車盗に遭いそうで非常に嫌な感じである。どこか後ろ髪を引かれるものを感じつつ、駅ビルの中へと進む。ビルの一角で営業しているパン屋では職人さんの仕込みが始まっていて♪朝一番早いのは〜♪という歌を思い出したが、それ以外では巨大な駅の構内にも人影がほとんど無く、だだっ広いスペースが恐ろしいまでの虚無感で満たされていた。

 ホームで待っているとほどなく岐阜方面行きの電車がやってきたので、これに乗り込む。車上の人になるまでにえらく苦労したが、何にせよ一たび電車に乗ってしまえば一息つける。20分ほど東海道線の列車に揺られると岐阜駅だ。前述の通りここではかなり長めの待ち時間が発生してしまうので、一度駅の外に出て朝飯でも食おうと企てる。出来れば吉野屋が良い。旅の朝はそうするのが慣習になっている。しかし岐阜の駅前には、吉牛はおろか思いのほか飲食店が少なく、結局缶コーヒー一本を飲んだだけで高山本線に入ることになった。






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