火を吹く島

 今にしてみれば、という話にはなるが、2009年の春は桜島の活動期だったらしい。もともと活火山の桜島ではあるが、高く噴煙が上がり、鹿児島市の街中が舞い上がった火山灰で薄暗くなった光景は全国にテレビ中継もされたりもした。私が桜島に渡ったのは、幸か不幸かそのような騒ぎがあった数日前のことだった。

 桜島フェリーは、鹿児島市街地の隅にある港から乗船できる。鹿児島市の中心部は、海と山に挟まれた狭い部分に開けており、その関係もあって港には市街から隔絶された雰囲気もない。ビル群が立ち並ぶ街中から、ほんの数百メートル走ると、そこにフェリーが停泊していた。

 実を言えば、車共々フェリーに乗るのはこれがはじめてである。その乗船システムがどうなっているのかよく分からないのだが、誘導員に促されるまま車を船底のような駐車スペースに滑り込ませる。伊勢湾フェリーに乗った時は、車を船に入れた直後に乗船料を払っていた記憶があるのだが、どうもここではそうなっていないらしい。そしてあろうことか、乗船料の支払いをどうするべきか分からないまま、船は岸壁を離れてしまった。後から「ただ乗りだ」と怒られたりはしないだろうか。何しろ薩摩守のお膝元である。若干気が重いまま、上部デッキに移動した。

 鹿児島市からも桜島の姿を見ることはできるのだが、フェリーに揺られながらその雄大な山容が近づいてくる様を見ていると、しみじみと旅情を誘われる。幸い、氷雨に凍えた昨日と違って今日は気候も良い。デッキで潮風に吹かれていても寒くはない。このままずっと、こうして海上から、ぼんやりと桜島を眺めているのも悪くはない。そんなことを思い始めたのだが、桜島フェリーの航路は思いの外短く、十数分で対岸にたどり着いた。船内アナウンスが、再上陸の時が近いことを告げる。

 ここまで一切乗船賃を請求されることがなかったので、逆にこのフェリーのシステムが分かってきた。運転席に戻り、船が接岸した後から指示されるままに車を発進させると、上陸した先に有料道路の料金所のようなものが見えた。運賃はここで清算することになった。運行距離が短いこともあり、思ったよりは安上がりな船旅だった。ここから先は、おそらく信号も少なく快適に流れるであろう桜島の道を行く事になるから、錦江湾を北に回り道する形で隼人道路を行くよりは、随分出費を抑えることが出来たはずである。

 桜島港には、国道224号線が通じている。桜島の南側を回る形になっているこの道は、通称を「溶岩道路」と言う。その名のとおり、荒涼とした溶岩地帯(大正溶岩)の中を行く道である。これだけ溶岩がごろごろ転がっているということは、いざ噴火となればこのあたりも火の海になるということか。なかなかの壮観なのだが、路上に車を停められるようなスペースがあるでもなく、記念撮影の一つもしないまま最初の溶岩地帯を走り抜けてしまった。今にして思えば、大して交通量もない道だったから、路肩に一時停止でもして写真を撮っておけば良かったような気もする。

 大正溶岩のあたりを走り抜けると、いくらか生活臭のある集落に出るが、それにしても山が近い。ここも噴火が始まればかなり危険な場所のような気がする。それに間違いなく降灰は多いようで、路面には埃のような火山灰が薄っすらと積もり、時として道を行く車がそれを巻き上げているのだが、そんなところにも人が住んでいるのに驚きだ。有村崎近辺まで来ると、再び沿道には再び野趣溢れる光景が戻ってくるが、それもわずかの間のことで、そこを通り過ぎたあたりで桜島は大隈半島と陸続きになっている。有名な鳥居埋没地を見学していこうかとも思っていたのだが、道を間違えて島を出てしまったので、あえて戻ることはせず、そのまま先を目指すことにした。






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