城・城・城

 中津駅に着いたのは11:33のこと。もう少し大きな街と駅を想像していたのだが、いずれも思ったよりだいぶ小ぢんまりとしており、駅前の人通りも少ない。こんなところで車を借りられるのだろうかと少々不安にもなったが、駅舎を出てすぐのところに駅レンタカーがあったので、ここで早々に車の手配を済ませた。

 中津でまず目指すのは、ちょっと山奥に入り込んだところにある長岩城だ。一般には耶馬溪の景勝で知られる地域で、車を借りた際に行き先を尋ねられので「長岩城へ行く」と答えたところ、受付の女性は不得要領の様子だったため「耶馬溪へ」と言い直したらようやく納得してもらえるといった有様だった。それにしても、長岩城の知名度は地元でもそれほどに低いのか。それは、天守閣の残っているような大規模な城ではないのだけれど、山のいたるところに石塁を巡らせた城として、全国的に見ても異彩を放っているし、地元では観光スポットの一つに数えられているのかと思っていた。

 中津駅から長岩城跡までは、車で30分ほどである。事前に地図で調べてみた感じでは、狭隘な山道のどん詰まりにあるような城なのではないかと気を揉んでいたのだが、実際にはそこまで山深い場所ではなく、小さな集落から登れる山上に残る城跡だった。しかし、だからと言って登りやすい城かといえばそうでもなく、まずイノシシよけのネットや扉を開閉しながら登城路に進入しなければならなかったし、上り坂もなかなか急だ。加えて足場もあまり良くはない。しかし、山のそこかしこに築かれた石塁(一部復元)には見応えがあった。石垣のある山城は多々あるが、長岩城で見られるのは、他の山城ではなかなか見られない光景である。城好きなら一見の価値ありといったところだろう。結果、汗だくになりながらも城跡のあちこちを見て回った。ただし、「銃眼のある石積櫓」として知られる遺構の存在する区画には行けなかった。道がかなり荒廃していたことによる。

 一部端折りながら、長岩城見学に投じた時間は約一時間。ここから羅漢寺に立ち寄るべきか、それともまっすぐ中津城に向かうのが良いか。大して回り道でもないので寺の麓にまでは行ってみたのだけれど、中津を早めに切り上げて小倉城を見ていくのが今回の旅の趣旨には合致しているかと考え、海沿いにある中津城を目指すことに。

 中津城は、中津でも古くからのものと思われる町の一角にある。古くからの町とはとりもなおさず、かつての城下町であると言って良いだろう。カーナビに案内されるまま城を目指したが、妙に細く入り組んだ道を行かされた。こうしてたどり着いた中津城には、現在では模擬天守が築かれており、見た目にはかなりお城らしい。歴史的に見えれば、秀吉を支えた二兵衛の片割れ、黒田官兵衛の流れを汲む城で由緒はあるのだが、反面で観光地としての魅力には少し乏しいのか、近年では維持費がかさむようになっており、2009年春の段階で、現在の城の持ち主は城を売却する道も検討しているようだ。内部展示も、中津の人のお城愛を感じられはするものの、観光の目玉となるものが不在なのは寂しい。

 30分ほどかけて中津城を見たあとは、再び日豊本線で北上。中津から先は普通列車での移動で十分である。そろそろ学校の授業の終わるタイミングなのか、車内には高校生の姿も目立つようになってきた。加えて、福岡県が近づいているのもあり、沿線は賑やかに、列車の利用客も数を増し、だんだん車中が騒々しくなってきた。政令指定都市であるところの北九州市・小倉駅に到着するに至っては、座れない客の姿も目立つようになってきた。

 小倉城があるのは、北九州市小倉北区である。城のすぐ近くには、新幹線も止まり、本州から九州に入った場合最初のターミナルとなる小倉駅がある。しかし、私が列車を降りたのは、城のほぼ真北となる西小倉の駅だった。どこからともなく、おいしそうなパンのにおいがしてくる。これはメロンパンか。不思議なもので、ある程度以上の都市規模を備える町の駅には良い匂いのパン屋が付き物になっている気がする。そろそろ腹も減ってきた。時間はすでに17時を回っている。

 西小倉の駅から小倉城までは、歩いて5分ほどの距離である。程なく水堀・石垣が見えてきて、すぐに目的地を見つけることが出来た。堀沿いに歩いていくと、松本清張記念館なんて言う施設もあり、これにも興味を引かれたが、今はとりあえず小倉城である。記念館の脇を通り過ぎて城の曲輪の中に入り込むと、あったあった、小倉城の復興天守が。しかし残念なことに、すでに閉館時間を迎えており、中を見学することが出来なかった。それならばと清張記念館に立ち寄ることも考えたが、こちらも18時で閉まってしまうらしく、時間に余裕のない状態で見学しようという気にもなれない。

 だいぶ腹も減ってきたし、長旅の疲れもたまりつつある。こうなったら、さっさと博多まで移動してしまおうか。すぐに方針は決まった。






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