地獄の光景

 杵築から、別府・大分方向へ取って返す。次に向かう城は、玖珠町にある角牟礼城なのだが、18きっぷ旅においては決してアクセスの良いとは言えない久大本線(ゆふ高原線)沿いにあるため、到着時刻は14時半に固定される。どこかで数時間の待ちをしなければならないので、そのために最適の地として選んだのが、別府にある地獄だ。

 別府市内に夥しい数の地獄がある中、メジャーな地獄は比較的限られている。血の池地獄のようなネーミングからして王道の地獄とか、アシュラマンを髣髴とさせる竜巻地獄などには興味を惹かれるが、これらは市街から少し外れた山側にあり、バスの本数も少なくはなるようなので、マイカーを使わない場合の訪問は少々不便そうである。そこで今回は、地獄の密集地帯である鉄輪温泉周辺のいくつかの地獄をめぐることにした。

 別府大学駅で列車を降り、鉄輪温泉側へ向かって歩く。別府の町は、海沿いの地区を除けば山に向かって開けている。特に温泉地はその山側に位置していることが多く、見通しの良い場所からだと、山の上の方でもうもうと立ち上る湯煙を見ることもできる。鉄輪温泉もそうした例には漏れず、別府大学駅からこれを目指す道は、登り坂が続く。市街地なので、登山とかハイキングとかの水準に比べれば、ずっと緩い坂道なのだけれど、30分あまりも登り坂を歩き続けると、さすがに汗もにじんでくる。

 そうしてたどり着いた地獄地帯は、いくつもの大型観光ホテルが林立するエリアの一画に位置していた。さすが都市部に隣接するだけあり、鄙びた温泉街というムードではない。活気のあったころの熱海、そんな感じなのかもしれない。

 今回巡った地獄は、白池地獄、鬼山地獄、かまど地獄、海地獄である。このほか、ごく近くには鬼石坊主地獄、山地獄もある。なお、入場料は一地獄400円だが、共通入場券も2000円で売られている。

 さて、これらの地獄は、基本的には火山地帯に湧出する高温の温泉が作り出す独特の景観を見せているものだ。本質的に成因が同じである以上、どうしてもバリエーションは限られてくるので、どこかに尖ったところを探しながらの地獄めぐりとなる。

 最初に足を運んだのが白池地獄だ。白池とはいうものの、温泉が作り出す池自体はやや白濁した感じの水色をしている。何が白いのか、その名の由来を探るに、立ち上る湯煙が、視界を真っ白に塗りつぶさんばかりの状態を作り出していることから来ているのかもしれない。この日回った地獄の中では一番小規模だったが、温泉の熱を利用したものか、アマゾンの魚を飼育するコーナーがある。ピラニアの説明とかに、ほのかに漂う昭和の香りが素敵だ。

 次が鬼山地獄である。間欠泉と言うほどではないが、熱湯がボコボコと音をさせながら、水柱を立ち上げて湧出している。これが「鬼山」の名の由来なのだろう。やはり温熱を利用したものなのか、ワニが飼われている。たまたま餌やりタイムに居合わせることができたが、さすがに変温動物だけあり、この時期は活動が不活発のようだ。とは言え、巨大なクロコダイルの一郎さん(二代目)はなかなかの迫力だった。ワニたちは意外にグルメなのか、馬肉に鶏一羽と、複数種類の餌をもらっているようだが、反応を見る限り、どちらかと言えば鳥のほうが好みのようである。ここで、たまたま居合わせたカップルから写真の撮影を頼まれた。よりによって一人で殺伐と地獄を巡っている私に頼むとは。浮かれたカップルは、地獄を見るが良い。

 さらに、かまど地獄へと進む。この地獄は規模が大きい。と言うか、小規模の温泉を複数まとめてかまど地獄としているだけに地獄内の景観は比較的バリエーションに富み、各地獄に地獄の一丁目とか二丁目とか、丁目が振られている。後述の海地獄とかぶる部分も多いが、熱泥が湧き出す正統かまど地獄(?)が見ものだ。後は、湯の湧出口にタバコの火を近づけ、その勢いを増すパフォーマンスも行っている。こうした現象が起こる科学的な理由は、現地でご確認いただきたい。この種のガイドを行っているのは、同じ日に見た中ではここだけだった。

 最後に海地獄である。このエリアの地獄の盟主と言って良いだろう地獄である。他地獄に比べ、ダイナミズムには欠けるところがあるが、青く澄んだ温泉池の景観は美しい。この日の私が最後にたどり着いた地獄だが、まずはここから入って、変化のある他地獄を回った方が良かったのかもしれない。青味がかった池自体は、かまど地獄内にも存在していた。

 鉄輪温泉にはバスターミナルがある。ここから別府駅まで行くバスの本数は多く、簡単につかまえることができた。別府から大分までの距離感が分からなかったので、駅に着いてからは最速で大分駅行きの電車に乗ったが、実は10分程度で到着する距離に過ぎず、大分駅で40分ほどの待ち時間が発生した。






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