旅路の果て

 鹿児島中央駅に戻ってくる。ここから先新八代までは一時18きっぷ利用をセーブし、九州新幹線での移動となる。新幹線特急券はもちろんのこと、乗車区間の乗車券を18きっぷで代用することはできないため、これもあわせて購入しなければならない。計4830円の出費となる。

 実を言うと今朝の段階では、この在来線から新幹線への乗り継ぎが時間的に厳しくなると予想していたため、鹿児島中央駅を出る前に新幹線の乗車券を購入してあった。単純なタイムテーブルで見れば中央駅着から発まで7分の余裕があり、たとえ在来線と新幹線のホームが隔てられていると言っても十分乗り換え可能な時間があるのだが、あろうことか私はこの乗り継ぎ時間内でのお土産購入を目論んでいたのだ。旅程の都合上、開聞以前にお土産を買うことができなかったためこうせざるを得なかったのである。鹿児島中央駅は、改札を出るとコンコースが左右に伸びており、そこにさつま揚げやかるかん、焼酎等の酒類など、鹿児島の特産品を商うお土産物屋が並ぶ構造になっており、要領良くやればどうにか土産物の物色も可能かと思われた。

 現実には開聞から指宿への帰還が思った以上にスムーズに済んだため、土産物選びの時間も十分に確保することができた。ところがこういう買い物と言うのは、時間があればあるだけ費やしてしまい、簡単には片がつかないものらしい。結局私は動物園のクマのようにコンコースをうろうろとし、かるかんを買うのが良いか酒を買うのが良いか、それともやはりさつま揚げを買って帰るべきなのかと随分長い間頭を悩ませる羽目になった。かるかん屋では「かるかんとは何ぞや?」という質問に答えてもらったし(かるかんとは米粉と山芋を混ぜて蒸し揚げたお菓子とのこと)、複数軒あるさつま揚げ屋では、そのいずれもでさつま揚げの試食をさせてもらった。あちこちのお店に義理と借りを作ってしまい、即興のしがらみにがんじがらめにされる始末。あちらを立てればこちらが立たずの状態に。結局、改札の目の前に立地している関係でファーストインプレッションの強烈だった揚立屋でさつま揚げの詰め合わせを買うことになった。さつま揚げと言うのは思っていたよりもずっと日持ちがしないものらしく、クール宅急便で後から届けてもらうこととなる。鹿児島から愛知の遠距離宅配なので、結局本体価格と送料がほとんど同額になるのが口惜しい。

 これで鹿児島でするべき仕事を全て片付けたことになり、一応思い残すことなくこの地を去れる事になった。わざわざ新規購入した乗車券を使って新幹線のホームに向かい、九州新幹線「つばめ」に乗り込む。つばめは、今回の旅で利用したどの列車よりも滑らかに走り出し、しかもいずれの車両よりも圧倒的な速度で走り続けた。その速さのあまりに車体が唸りを上げているかのような錯覚に陥ったが、冷静になってみればもちろんそんなことはない。無音かつ高速。それがつばめの乗車感だった。ムーンライトが、いかにも苦しそうにしていながらさほどのスピードでは走れなかったのとは好対照である。もっともこの九州新幹線は、少なくとも鹿児島から八代までの区間は、山の中ばかり走り、勢いトンネルばかりが連続する形になる。人口稠密地帯を走るわけではないので騒音問題に関してはさほど心を砕かなくて済んだ路線なのかもしれない。つばめは、前日私が4時間ほどもかけて移動した区間を1時間と経たずに走りきってしまった。恐るべきスピードと言いたいところだが、のぞみをはじめ新幹線と言うのはまあそういうものだろう。

 どうも殺風景な印象の新八代駅から先は、またいつもの鈍行列車での道行となる。とろとろとした歩調で進む鈍行に揺られながら、私の瞼も次第に重くなっていった。

 それでもどうにか乗換駅で寝過ごしたりすること無く、19時頃には博多駅にたどり着くことができた。実は昨日博多駅についてからずっと心に期する所があって、それはズバリ音に聞く博多のとんこつラーメンを食してやろうということだったのだけれど、ついにその悲願を果たす機会がやってきたのである。ところが、博多駅の構内・駅ビルには意外にもラーメン屋が見当たらない。いや、本格的に探してみればどこかには名店があるのかもしれないのだけれど、少し流してみただけでは一向にそれらしい店に行きあたらいのだ。ついには駅の中をグルグル歩くのには見切りをつけて街の方へと踏み出し、そうしてようやく小さな店を見つけたほどである。そうやって見つけた目立たぬ店だからなのか、正直に言って博多ラーメンは期待していたほどではなかった。

 どういう形であるにせよ博多ラーメンを食べたことに満足し、再び駅へと戻って大阪行きのムーンライトを待つ。どういうわけか博多発のムーンライトは大阪のそれに比べて早い時間の20時台の出発となっている。

 いい加減で「九州だから暖かい」ということはないと気付き始めていたのだが、やはり博多駅のホームも寒かった。寒いなりにうろうろしていると、なんと駅のホームに立ち食いラーメン屋があるではないか。もちろんサッポロラーメンとかではなく博多ラーメンが食べられるラーメン屋である。こういう博多・福岡の顔とも言える場所で営業しているラーメン屋なら、案外それなりの味の店だったのかも知れないなどと思いながら店を覗いてみると、かわいらしいお嬢さん方が暇そうに店番をしている。店番と言うかおそらくアルバイト店員か何かだろうが、たまたま彼女等と目があってしまった。そして一度は素通りしたものの、そのまま捨て置くには忍びなく、最終的にはその店で二度目の夕食を取る事になってしまった。味的にはやはり可もなく不可もなくという感じの味だったが、さすがに2度もとんこつスープのラーメンを食べるのは厳しいものがあり、ムーンライトが到着するやその座席に体を投げ出した。

 このまま眠りにつけば明日の朝には大阪の駅に到着する。そしてそこまで行けば、今回の旅もおおよそは終わりである。本当にいろいろなことあった旅だった。が、こうして終わりが近づいてみれば、存外短かったような気もする。






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