山城守・尾張守・薩摩守

 前述したとおり、今回の旅は平日の仕事終わりに出発するという点が目新しい。それもこれもムーンライトながらの名古屋発時間が23:55という時間に設定されているおかげである。よほどのことがない限り、この時間に間に合わなくなるまで仕事をすると言う事はない。仮にそんな事があるとしたら完全に徹夜コースだ。ただ、このダイアグラム設定は絶妙のところを狙ったあざといものだという気がしないでもない。今までの旅行記でも再三述べている通り、ムーンライト系の列車は指定券こそ別に必要になるものの、青春18きっぷで乗車できる。その青春18きっぷ1回分の効力が持続するのは入鋏時から同日付の間。つまり、仮に23:55の列車に乗るために18きっぷを使うとなると、5分ほど乗ったところで最初の1回分が有効期限切れになってしまうのだ。これは名古屋の次の金山から乗った場合にも避けられない問題で、金山駅に至っては18きっぷ利用でムーンライトに乗車すると、たった2分乗車しただけで1回分を使い果たしてしまう事になる。そのため、18きっぷ利用者はたいていの場合は日付が変わって最初の駅(今回の場合は大府)までの乗車券を別途購入する事になる。利用者が多いであろう名古屋市内駅からの乗車まで余分の出費を求めるように仕組んでいるのではあるまいな。

 ところで、これまで何度も利用しているつもりだったムーンライトも、今回数えなおしてみたところ都合3度しか乗っていないことが分かった。博多(鹿児島)までの行き返りの2回と、高知からの戻りの1回である。3回とも大阪発着の列車であった。名古屋から夜行に乗るのは、これまた新しい経験だ。これまでの3度は、いずれも発車までの時間をもてあましたものだったが、今回はその心配はなさそうである。何せホームタウンからの出発だ。ルパン三世のスペシャルを見てから悠々出発しても発車時刻には十分間に合う。ところがこの時の私にはルパンを見ているわけには行かない理由が2点あった。名古屋駅までは自転車で移動、さらに屋根付夜間施錠の駐輪場が22:00で閉鎖されてしまうのでそれまでに名古屋駅に着かなければならないというのが第一。さらに、久しぶりに本郷亭のラーメンを食いたくなったので、出発前にこれを食べに行こうと目論んだのが第二。本郷亭は23時で閉まる。あの、食後に水をがぶ飲みしたくなるラーメンを夜通しの列車旅の前に食べるのは冒険だったのだけれど。

 さて、自転車をしかるべき場所にしまい、念願かなってラーメンを食べ終わったところで22時を少し回った。ここであることに気づいた。旅先各駅での列車出発時刻を調べてメモしておいた乗り換えノートを家においてきてしまったのだ。この時間ならおそらく、一度取りに戻っても列車の時刻には間に合うはずなのだが、名古屋の夜は早く、地下鉄等の輸送能力も格段に低下する。ギリギリアウトになる可能性も否定し切れなかったので、ノートは諦める事にした。どの道今回は列車時刻表も携行している。強いて言うなら、計画の再確認を行うときにメモ書きが出来ないと不便なので、駅近くのコンビニでメモ帳だけ購入。そのあとはタワーズ周辺をうろうろしながら出発の時を待つ。これまでこの時間に名古屋駅を無為にうろついた事はなかったが、タワーズ直下のデッキが京都鴨川状態のカップルに占拠されていたり、おおよそそうなっているであろうなと思っていた光景が、まさにその通りに繰り広げられていた。奴らめ、酒も入って気が大きくなっているのか、人目も憚らずと言った趣である。

 タワーズ上層に上がると、家路を急ぐ多くの人たちが終電に間に合わせようと足元の名古屋駅コンコースへと吸い込まれていく。さらには、客待ちならぬ客を乗せて駅までやって来たタクシーの列が駅前一体に長い光の帯を作り上げていた。再度言う。名古屋の夜は早い。盛り場でも夜通し開いている店は少なく、多くの場合、どんちゃん騒ぎは日付が変わる30分ほど前までである。どうやら私の乗る列車の時刻も近づいてきているらしい。時計を見ると23:30を回っていたので何十mか下の駅の方へと下りて行った。

 名古屋駅を0時近くにほっつき歩いているのは、名古屋市民や尾張地区の住人、せいぜい西三河か岐阜あたりの人間でなければならない。それより遠くに暮らしている人間の場合、この時間になると彼らを自宅へと運んでくれる電車は無くなってしまっているはずである。ホームでムーンライトを待っていると、どうやら終電を逃したらしい豊橋方面の人間の会話が漏れ聞こえてきた。いったいどうするのかと思っていたら、なんと彼らは、やってきたムーンライトながらに乗り込んでいく。しかもあろうことかそうした中の一人が、私が見ている前で私が押さえた席に座り込んだではないか。もちろん即座に席を空けさせたが、どうも同じ車内には同様の薩摩守が大挙して乗り込んでいるようである。車内アナウンスでも、座席指定券を持っていなかったら車掌に510円を払えといっているではないか。しかし、明らかにこの車両に不似合いな酔客らが指定券料を車掌に払っている姿を見かけることはついになかった。というか車掌が回ってこない。これでは、小額とはいえルールを守り指定券分の金を払って乗車しているのがばかばかしくなってくるではないか。

 車掌が回ってこない不都合はもう一つあって、日付変更後も入鋏してもらえなくなる。これをしないと最初の下車駅でトラブる事になり、というか私は過去に、早朝、たまたま車内で車掌に会うよりも早く下車したためにもめたことがあるのだ。JR側の怠慢が原因でJRに怒られたようで気分が良くなかったのだが、もうそういうことは避けたい。結局、2時ぐらいまで起きていたらようやく車掌が回ってきたが、別に指定券の検札をするでもなく、入鋏もこちらから申告しなければされないままだっただろう。JR西日本はそのあたりがうるさかったのだが、東海はそうでもないらしい。もっとも、いちど東京についてしまえばそこから先は乗客がどの駅で降りようが東日本の島での話なので頓着がないのかもしれないが。







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